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TORENDIA

苦しく美しき夏

本文約7,800字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

海辺の高台に暮らす病身の妻と夫は、極限的な生活状況の中で、日常の些細な光景や夢の中に、燃えるような美しさと生への執着を見出す。妻の容態に一喜一憂しつつ、外の世界から切り離されたような二人は、互いの魂に響き合う病苦と祈りを抱えながら、絶望と憤怒に揺れ動く日々を過ごす。本作は、戦後の荒廃した現実の只中で、脆く危うい平穏を維持しようとする夫婦の姿を通じ、生の根源的な美と終末の予感を重層的に描く。

原民喜

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陽の光の圧迫が弱まってゆくのが柱に凭掛っている彼に、向側にいる妻の微かな安堵を感じさせると、彼はふらりと立上って台所から下駄をつっかけて狭い裏の露次へ歩いて行ったが、何気なく隣境の空を見上げると高い樹木の梢に強烈な陽の光が帯のように纏わりついていて、そこだけが赫と燃えているようだった。てらてらとした葉をもつその樹木の梢は鏡のようにひっそりした空のなかで美しく燃え狂っている。と忽ちそれは妻がみたいつかの夢の極致のように彼におもえた。熱い海岸の砂地の反射にぐったりとした妻は、陽の翳ってゆく田舎路を歩いて行く。ぐったりとした四肢の疲れのように田舎路は仄暗くなってゆくのだが、ふと眼を藁葺屋根の上にやると、大きな榎の梢が一ところ真昼のように明るい光線を湛えている。それは恐怖と憧憬のおののきに燃えてゆくようだ。いつのまにか妻は女学生の頃の感覚に喚び戻されている。苦しげな呻き声から喚び起されて妻が語った夢は、彼には途轍もなく美しいもののようにおもえた。その夢の極致が今むこうの空に現れている……。彼にとっては一度妻の脳裏を掠めたイメージは絶えず何処かの空間に実在しているようにおもえた。と同時にそれは彼自身の広漠として心をそそる遠い過去の生前の記憶とも重なり合っていた。あの何か鏡のようにひっそりとした空で美しく燃え狂っている光の帯は、もしかするとあの頂点の方に総てはあって、それを見上げている彼自身は儚い影ではなかろうか。……これを見せてやろう、ふと彼は妻の姿を求めて、露次の外の窓から家のなかを覗き込んだ。妻は縁側の静臥椅子に横臥した儘、ぼんやりと向側の軒の方の空を眺めていた。それは衰えてゆく外の光線に、あたかも彼女自身の体温器をあてがっているような、祈りに似たものがある。ほんの些細な刺戟も彼女の容態に響くのだが、そうしていま彼女のいる地上はあまりにも無惨に罅割れているのだったが、それらを凝と耐え忍んでゆくことが彼女の日課であった。

「外へ椅子を持出して休むといいよ」

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