TRENDIA CLASSIC

睡魔

蘭郁二郎

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「おやっ? 彼奴」

村田が、ひょっと挙げた眼に、奥のボックスで相当御機嫌らしい男の横顔が、どろんと澱んだタバコの煙りの向うに映った――、と同時に

(彼奴はたしか……)

と、思い出したのである。

「君、あの一番奥のボックスの男にね、喜村さんじゃありませんか、って聞いて来てくれないか、――もしそうだったらここに村田がいるっていってね」

「あら、ご存じなの……」

「うん、たしか喜村に違いないと思うんだが……」

「じゃ聞いて来たげるわ」

ハルミが、べっとりと唇紅のついた吸いかけの光を置いて、立って行った。

と、すぐに、聞きに行ったハルミよりも先きに、相当廻っているらしい足を踏みしめながら、近づいて来たのは、矢ッ張り中学時代の級友喜村謙助に違いなかった。

「おう、村田か、しばらくだったな」

そういって、つるんと鼻のしたを撫ぜた為種まで、思い出すまでもなくその頃からの喜村の癖だった。

「どうだい、その後は……」

村田が、まあ掛けろ、というように椅子を指して

「それはそうと、珍らしいところで逢ったもんじゃないか……、たしか高等学校の二年で忽然と姿を消しちまったって噂だが、――誰かがそういってたぜ」

「まさに、その通り」

「ふーん」

「忙しいんでね――」

「何やってんだ、一体――。別に学校を退めるほどの事情もなさそうだったが、働かなきゃならんほどの」

「犬――を飼ってるよ、それが仕事さ」

「へーえ」

「学校なんかよかグンと面白い――。それに今は時節柄、軍用犬の方の仕事もひどく忙しいんでね」

「おやおや、犬が好きだってことは聞いていたが……、すると犬屋か」

「左様――」

喜村は、又鼻の下を撫ぜて、大きく頷くと、何かを思い出したように、あわてて元のボックスに戻って、脱ぎのこしてあったオーバーを抱えて来た。

「おい見ろよ」

「え――」

喜村は、オーバーのポケットから小猫のような犬を抓み出した。ポケットテリヤだった。

「まあ可愛い、一寸抱かしてね……」

早速ハルミが抱いてしまって

「なんて名前――? ほしいわ」

「都合によっては、やらんこともない――」

「まあ、ほんと」

「ほんと、さ」

「おい、喜村。こういう手があるとは知らなかったね」

「はっははは」

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