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TORENDIA

地図をながめて

本文約6,000字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

陸地測量部が作成する地形図の価値と、その製作に携わる人々の献身的な姿を綴る。筆者は安価で入手できる地形図を知識の宝庫と呼び、土地の起伏や分布を正確に伝えるその有用性を説く。一方で、地形図は過酷な環境での三角測量や観測を経て完成しており、測量部員たちの科学的な誠実さがそこには込められている。将来の交通網の発達や防災を見据え、平面図に留まらない立体的な地図の必要性や、地下空間の活用の可能性についても言及し、国家的な意義を持つ測量事業への理解を求めている。

寺田寅彦

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🎧 地図をながめて / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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「当世物は尽くし」で「安いもの」を列挙するとしたら、その筆頭にあげられるべきものの一つは陸地測量部の地図、中でも五万分一地形図などであろう。一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金銭に換算することのできないほど貴重なものである。今かりにどれかの一枚を絶版にして、天下に撒布されたあらゆる標本を回収しそのただ一枚だけを残して他はことごとく焼いてしまったとしたら、その残った一枚は少なくも数百円、相手により場合によっては一万円でも買い手があるであろう。

一枚の五万分一図葉は、緯度で十分、経度で十五分の地域に相当するので、その面積は、もちろん緯度によってちがうが、たとえば東京付近でざっと二十七方里、台湾では約三十一方里、カラフトでは約二十一方里ぐらいに当たる。

この一枚の地形図を作るための実地作業におよそどれだけの手数がかかるかと聞いてみると、地形の種類によりまた作業者の能力によりいろいろではあるがざっと三百日から四百日はかかる。それに要する作業費が二三千円であるが、地形図の基礎になる三角測量の経費をも入れて勘定すると、一枚分約一万円ぐらいを使わなければならない、そのほかにまだ計算、整理、製図、製版等の作業費を費やすことはもちろんである。

それだけの手数のかかったものがわずかにコーヒー一杯の代価で買えるのである。

もっとも物の価値は使う人次第でどうにもなる。地図を読む事を知らない人にはせっかくのこの地形図も反古同様でなければ何かの包み紙になるくらいである。読めぬ人にはアッシリア文は飛白の模様と同じであり、サンスクリット文は牧場の垣根と別に変わったことはないのと一般である。しかし「地図の言葉」に習熟した人にとっては、一枚の図葉は実にありとあらゆる有用な知識の宝庫であり、もっとも忠実な助言者であり相談相手である。

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