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TORENDIA

極楽

本文約6,500字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

京師の老婦人おかんは、熱心な信仰心と安らかな往生を遂げたことで、極楽浄土へと導かれる。念願叶って夫の宗兵衛と再会し、苦しみのない永遠の平穏に包まれた日々を過ごすが、やがて変化のない生活に強烈な退屈を覚え始める。二人は何一つ変わらない日々に倦み、時折地獄の有様を想像し語り合うことだけを慰めとして、永遠に同じ蓮の台へ坐り続ける。

菊池寛

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🎧 極楽 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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京師室町姉小路下る染物悉皆商近江屋宗兵衛の老母おかんは、文化二年二月二十三日六十六歳を一期として、卒中の気味で突然物故した。穏やかな安らかな往生であった。配偶の先代宗兵衛に死別れてから、おかんは一日も早く、往生の本懐を遂ぐる日を待って居たと云ってもよかった。先祖代々からの堅い門徒で、往生の一義に於ては、若い時からしっかりとした安心を懐いて居た。殊に配偶に別れてからは、日も夜も足りないようにお西様へお参りをして居たから、その点では家内の人達に遉はと感嘆させたほど、立派な大往生であった。

信仰に凝り固まった老人の常として、よく嫁いじめなどをして、若い人達から、早く死ねよがしに扱われるものだが、おかんはその点でも、立派であった。一家の者は、此の人のよい、思いやりの深い親切な、それで居て快活な老婦人が、半年でも一年でも、生き延びて呉れるようにと、祈らないものはなかった。従って、おかんが死際に、耳にした一家の人々の愁嘆の声に、微塵虚偽や作為の分子は、交って居ない訳だった。

おかんは、浄土に対する確かな希望を懐いて、一家の心からの嘆きの裡に、安らかな往生を遂げたのである。万人の免れない臨終の苦悶をさえ、彼女は十分味わずに済んだ。死に方としては此の上の死に方はなかった。死んで行くおかん自身でさえ、段々消えて行く、狭霧のような取とめもない意識の中で、自分の往生の安らかさを、それとなく感じた位である。

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