奇賊悲願
本文約9,300字 ・ 読了時間 約19分
あらすじ(AIが作成しました)
名怪賊烏啼天駆は、刑務所から出た単純で血気盛んな義弟的矢貫一の更生に頭を悩ませる。一発必中の腕前でピストルを放ち続ける貫一を改心させるため、烏啼は宿敵である名探偵袋猫々に相談を持ちかける。猫々の助言により、夜ごと現れる刑事との不可解な銃撃戦が展開されるなか、貫一は自身の凶行に疑問を抱き始める。やがてピストルを捨てて平穏な生活を選んだ貫一は、結婚式を通じて義弟を想う兄の真実と計画を知ることとなる。
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義弟の出獄
烏啼天駆といえば、近頃有名になった奇賊であるが、いつも彼を刑務所へ送り込もうと全身汗をかいて奔走している名探偵の袋猫々との何時果てるともなき一騎討ちは、今もなお酣であった。
その満々たる自信家の烏啼天駆が、こんどばかりは困り果ててしまった。散歩者の胸の中から心臓を掏り盗る技術も持っているし、一夜のうちに時計台を攫っていってしまう特技もある怪賊烏啼にとって、天下に困ることは一つもない筈だったが、こんどというこんどばかりは、彼は大困りに困り果ててしまったのである。そのわけは、彼の只一人の愛すべき、義弟が、満期になって刑務所から出て来たことだった。
刑務所から晴れて出て来たんだから、まことに結構なわけで、困る事なんかすこしもない筈だが、かれ烏啼は大いに困り果てるのだった、というのはこの義弟的矢貫一なる青年は一に二を足して三になったほどの非常に単純な男であった。その上に彼はピストルを発射することがたいへん好きであって、もし何人か何十人かがピストルを持っていて彼もその中に交っていたとしたら、誰れよりも真先にピストルの引金をひくのは彼的矢貫一に違いなかった。なおその上に、彼の射撃たるや千発千中どころか万発万中という完璧な命中率を保持していることであった。
さような次第だから、的矢貫一が出獄し、当節の一から百まで腹立たしい世間へ顔を出したとなると、単純な彼を怒らせる機会はいくらでも転がっていて、ぱぱンぱぱンと直ぐさまピストルから煙を出すようになることは必至である――と、義兄烏啼天駆は推測しているのである。