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TORENDIA

点心

本文約7,400字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

芥川龍之介の『点心』は、自身の記憶や読書体験、芸術家への考察などを綴った随筆集である。幼少期の過ちや嫉妬の記憶、加納夏雄が晩年まで創作に情熱を注いだ逸話、内田百間や漱石作品への批評、池西言水の句に潜む鬼気の分析、ビイアスの作風紹介、歴史考証に関する覚え書き、あるいは道で見かけた少女への淡い印象など、多岐にわたる題材を通じて、日常の断片と創作への思考を率直に描き出す。

芥川龍之介

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🎧 点心 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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御降り

今日は御降りである。尤も歳事記を検べて見たら、二日は御降りと云はぬかも知れぬ。が蓬莱を飾つた二階にゐれば、やはり心もちは御降りである。下では赤ん坊が泣き続けてゐる。舌に腫物が出来たと云ふが、鵞口瘡にでもならねば好い。ぢつと炬燵に当りながら、「つづらふみ」を読んでゐても、心は何時かその泣き声にとられてゐる事が度々ある。私の家は鶉居ではない。娑婆界の苦労は御降りの今日も、遠慮なく私を悩ますのである。昔或御降りの座敷に、姉や姉の友達と、羽根をついて遊んだ事がある。その仲間には私の外にも、私より幾つか年上の、おとなしい少年が交つてゐた。彼は其処にゐた少女たちと、悉仲好しの間がらだつた。だから羽根をつき落したものは、羽子板を譲る規則があつたが、自然と誰でも私より、彼へ羽子板を渡し易かつた。所がその内にどう云ふ拍子か、彼のついた金羽根が、長押しの溝に落ちこんでしまつた。彼は早速勝手から、大きな踏み台を運んで来た。さうしてその上へ乗りながら、長押しの金羽根を取り出さうとした。その時私は背の低い彼が、踏み台の上に爪立つたのを見ると、いきなり彼の足の下から、踏み台を側へ外してしまつた。彼は長押しに手をかけた儘、ぶらりと宙へぶら下つた。姉や姉の友だちは、さう云ふ彼を救ふ為に、私を叱つたり賺したりした。が、私はどうしても、踏み台を人手に渡さなかつた。彼は少時下つてゐた後、両手の痛みに堪へ兼たのか、とうとう大声に泣き始めた。して見れば御降りの記憶の中にも、幼いながら嫉妬なぞと云ふ娑婆界の苦労はあつたのである。私に泣かされた少年は、その後学問の修業はせずに、或会社へ通ふ事になつた。今ではもう四人の子の父親になつてゐるさうである。私の家の御降りは、赤ん坊の泣き声に満たされてゐる。彼の家の御降りはどうであらう。(一月二日)

御降りや竹ふかぶかと町の空

夏雄の事

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