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TORENDIA

春

本文約3,500字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

春の朝、二人の友人が暮らす家の縁側で、飼っていた二羽の文鳥のうち一羽が誤って籠から逃げ出してしまう。籠に残った一羽が切なく囀る中、庭の木々や草花の間を自由に飛び回る文鳥の姿は、自然の光の中でかつてないほど美しく見える。二人は籠へ戻る様子を見守りつつも、広い空へと踏み出した鳥の自由を思う。やがて夜になり、文鳥は帰ることなく自然の中で眠りにつく。かつて白鷺を籠から放つ詩に涙した自身の記憶を重ね、春の夜にその美しい羽色を想う。

宮本百合子

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🎧 春 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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硝子戸に不思議に縁がある。この間まで借りていた二階の部屋は東が二間、四枚の素通し硝子であった。朝日が早くさし込む。空が雑木の梢を泛べて広く見渡せ、枝々の間から遙に美しく緑青をふいた護国寺の大屋根が見えた。温室に住んでいるよう、また、空中に浮いているような気もしたが景色はよかった。今度引越した小さい家は、高台ではあるが元の借間程見晴しはない。けれども硝子戸はここにもあって、南方の縁側が八枚、雨戸なしだ。黎明、朝、ひる間、順々に外光がたっぷり八畳に流れ込む。夜、森とした中で机に向ってい、ひょいと頭を擡げると、すぐ前に在る障子の硝子面、外の硝子の面と、いきなり二重に自分の顔や手つきが映り、不気味になる。――ああ、こんなにすき透し! 泥棒にすっかり見られてしまう。どうしても、カアテンがなければ駄目だ!

カアテンをまだ買わないので、朝少し眩しい。私は沢山ぐっすり眠りたい。そこで、工面をし、机の引出しから友達の香典がえしに貰った黒縮緬の袱紗を出した。それを二つにたたみ、鼻の上まで額からかぶる。地がよい縮緬なので、硝子は燦く朝なのに、私の瞼の上にだけは濃い暗い夜が出来る。眠り足らず、幾分過敏になりかけていた神経は快いくつろぎを感じ、更に二三時間休みを得るのだ。

一緒に暮している友達は、いつも私より一時間位早い。彼女は、目が醒めると勢よく二階から降りて来る。その階子が、私の眠っている部屋の頭の方に当るので跫音は大抵ききつける。ききつけながら、私は眠りつづけるのだが、友達は、どちらかといえば私にも早く起きて欲しいに違いない。起きてよい頃と思うと、物音に遠慮しない。

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