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TORENDIA

あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

五年間の沈黙ののち、戦争によって閉ざされていた理性や善意を恢復させるべく執筆された『播州平野』と『風知草』を解説する。一九三二年以来書き続けてきた主題を盛り込んだこの二作品が、私小説からの脱却や日本文学が世界文学へと参加する可能性を示唆することを論じる。作者が人生の初秋において妻として甦った生と文学の息づきを写し出すこれらの作品は、一九四七年度の毎日出版文化賞を受けた。

宮本百合子

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🎧 あとがき(『宮本百合子選集』第七巻) / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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暗くしめっぽい一つの穴ぐらがある。その穴ぐらの底に一つの丸い樽がころがされてあった。その樽は何年もの間、人目から遮断されたその暗がりにころがされていて、いそがしく右往左往する人々は、その穴ぐらをふさいでいる厚板の上をふんで歩いていながら、その足の下にそんな樽のあることは心づかなかった。よしんば、そこの穴ぐらや樽について知っている人があったにしろ、そのことについては黙っていた。なぜなら人々は、云っていいと許されていることについてしか話せなかったし、穴ぐらや樽については話していけないからこそふたでふさいで暗いところにころがしておくのであったから。

ところが、或る夏の日、あたり一帯もの凄い音響がして、やがて死んだようにしんとなった。しばらくして、その森閑とした大気のどこかしらから人声がきこえて来た。かすかだった人声は次第にたかまり、やがて早足に歩く跫音がおこり、やがてかたまって駈けまわるとどろきになって来た。君たちは、話すことができる! 君たちは話すことができる! そういう歓喜の叫びが穴ぐらの底までつたわって来た。樽は、幾年ぶりかで穴ぐらから外気の中に運び出された。ほこりをかぶった樽の栓がぬかれた。樽はむせび鳴りながら自身のなかみをほとばしらせた。日光にきらめき、風にしぶきながら樽からほとばしる液体は、その樽の上に黒ペンキでおどかすようにかきつけられていたPoison――毒ではなかった。液汁は、芳醇とまではゆかないにせよ、とにかく長年の間くさりもしないで発酵していた葡萄のつゆであった。

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