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TORENDIA

まといの話

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

武士が用いた「まとい」と「のぼり」の変遷および語源的考察を綴る。軍学的な起源説の不確実性を指摘し、本来の用途や馬印との混同、時代の推移に伴う形態の変化を検証する。特に、清正の纏などに代表される「ばれん」の装飾的意義や、戦場の軍器から江戸の町火消しへと引き継がれた経緯を論じる。桙の末流としての歴史的な源流を辿りつつ、武家の廃れとともに変質していった纏の姿を、関連資料や方言的考察を交えて詳述する。

折口信夫

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🎧 まといの話 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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一 のぼりといふもの

中頃文事にふつゝかであつた武家は、黙つて色々な為事をして置いた。為に、多くの田舎侍の間に、自然に進化して来た事柄は、其固定した時や語原さへ、定かならぬが多い。然るに、軍学者一流の事始めを説きたがるてあひに、其がある時、ある一人のだし抜けの思ひつきによつて、今のまゝの姿をして現れた、ときめられ勝ちであつた。其話に年月日が備はつて居れば居る程、聴き手は咄し手を信用して、互に印判明白に動かぬ物、と認めて来た。明敏な読者は、追ひ書きの日附けが確かなれば確かなるだけ、真実とは、ともすれば遠のきがちになつて居る、様々な場合を想ひ起されるであらう。

康正二年の萱振合戦に、敵どうしに分れた両畠山、旗の色同じくて、敵御方の分ちのつきかねる処から、政長方で幟をつけたのが、本朝幟の始め(南朝紀伝)と言ふ伝へなども、信ずべくば、此頃が略、後世の幟の完成した時期、と言ふ点だけである。

のぼりはた袖(相国寺塔建立記)と言ふ語が、つゆ紐の孔を乳にした、幟旗風の物と見る事が出来れば、其傍証となる事が出来る訣である。千幾百年前の死語の語原が、明らかに辿られて、さのみ遠くない武家の為事に到つては、語の意義さへおぼつかないのは、嘘の様な事実で、兼ねて時代の新古ばかりを目安にして、外に山と積まれた原因を考へに置かずに、語原論の値打ちをきめてかゝらうとする常識家に向けての、よい見せしめである。

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