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TORENDIA

霊感

本文約15,100字 ・ 読了時間 約31分

あらすじ(AIが作成しました)

都内某寺の墓地にある古びた身禄山と称される塚は、人々に忘れ去られていたが、ある未亡人の霊的な感応を機に、地域で再び信仰を集め始める。本作は、霊的な能力を持つ女性が、身禄山の供養や、土地に由来する地蔵や稲荷などの祭祀を通じ、現代的な科学的価値観と信仰の間で揺れ動く人々の姿や、自身の霊的体験を淡々と綴る。目に見えない世界の示唆と、それに振り回されながらも生活を送る市井の人々の動向を描く物語である。

豊島与志雄

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第一話

都内某寺の、墓地の一隅に、ちと風変りな碑があります。火山岩の石塊を積みあげて、高い塚を築き、その頂に、平たい石碑を立てたものです。碑面に、身禄山とありますが、その昔、身禄という行者があって、深山に籠り、禅の悟道に参入して生を終えた、その人のために建てた碑です。大正十二年再建とありますが、大正十二年といえば関東大地震の年で、恐らく、土台の石畳の一部が壊れるか、碑が傾くかして、それを修理したのでしょう。全体の構築はたいへん古く、碑の背後には、樫の古木が茂っています。

この身禄山を、附近の人々は、ミロクサンと呼んでいます。文字面の音をそのまま取って、身禄さまではなく、身禄さんと、親しい気持ちをこめたものです。そして朝な夕な、誰がするともなく、白紙に塩や白米を盛ったのが、身禄さんの前に供えられています。

この身禄さんを、三年ほど前までは、ほとんど誰も顧みる者がありませんでした。塚全体が荒れはて、茅草や灌木が生え、といっても火山岩を畳みあげたものですから、気味わるい茂みを作るほどではなく、あたりの立木の蔭にひっそりとして、つまり、人目につかない状態のまま、うち捨ててあったのです。

ただ、江口未亡人とその娘さんとは、身禄さんのそばを通りかかる時、いつも、ちょっと頭を下げました。身禄さんを信仰するかどうとかいうのではなく、自然にそういう習わしになっていました。

戦後のこととて、寺の境内も墓地も、手入が行届いておらず、板塀や垣根なども壊れたままで、通行自由な有様でした。江口さんの家から大通りへ出るのには、墓地をつきぬけるのが一番の近道で、その近道のそばに身禄さんがあるので、そこを通りかかることが多かったのです。そして通りかかると、江口さんも娘さんも、何ということなしに、軽く頭を下げました。

ところが、その江口さんの家に、いろいろ思うに任せぬことがあったり、娘さんの健康がすぐれなかったりして、春の末頃から、江口さんはなんだか気持ちが沈みがちで、不安な影を胸うちに感ずるようになりました。

そのことを、江口さんは、日頃懇意にしているA女を訪れた際、世間話のついでに、訴えてみました。

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