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TORENDIA

老嫗面

本文約19,200字 ・ 読了時間 約39分

あらすじ(AIが作成しました)

安川は、肺を病み周囲から疎まれる酒場の女給タツノを自宅へ引き取り養うという無意味な決意をする。妻の松江は猛反発し、夫婦間ではタツノを巡る醜い争いが絶えず、安川は神経を衰弱させていく。冷酷な母親おたきとの確執や自身の抱える閉塞感に苦しむ安川は、やがて精神の均衡を崩し破滅へと追い詰められていく。本作は、愛憎の相克と人間の逃れようのない倦怠や毒を、極限的な状況下で生きた人々の姿を通して描く。

坂口安吾

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初夏のうららかなまひるであつた。安川はタツノの着物をつめこんだ行李を背負つて我家へむかつた。安川のうしろには、タツノが小さな手荷物をさげ、うはづつた眼付をしてぼんやり歩いてゐた。タツノのうしろには彼女の三人の朋輩が、一人はあくどい紫色の女持トランクをぶらさげ、あとの二人は異体の知れない大包のみそれぞれ一端をつるしあげながら、からみあつてねり歩いてきた。露路の奥から子供の群が駈けだしてきて声援しながら見送るほどの盛大な引越であつた。

小さな酒場の女主人が駈落した。誰知らぬうちに店の権利を売つてゐたので、翌日から主人が変り、三人の女給が難なく居残ることになつたが、駈落した前主人の姪にあたるタツノの処置に人々は困つた。

タツノは肺を病んでゐた。二十一才であつた。癇癖が強く、我儘で気まぐれだつた。ひとつのことに長く注意のつづかぬたちで、話の途中にぷいと席を立つてしまふし、腹を立てると食事を摂らずに部屋の暗い片隅に一日坐りとほしてゐた。鞠のやうにはずみきつた時間のあとでは、馴れた人も見破れないまことしやかな嘘をついて人々に迷惑をかけ、自分は半日泣きつづけてゐる習慣だつた。

新しい女主人はタツノを見ると一目から嫌ひになつた。胸の病が分つたときには、運わるく疫病神に出会つたやうに目をつぶつて逃げのびて、三日のうちに出ていつてくれと隣の部屋から金切声できやん/\喚いた。タツノに恋人のなかつたことが、今となつては人々の頭痛の種になるのであつた。

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