一
海浜都市、K――。
そこは、この邦に於ける最も華やかな、最も多彩な「夏」をもって知れている。
まこと、K――町に、あの爽やかな「夏」の象徴であるむくむくと盛り上った雲の峰が立つと、一度にワーンと蜂の巣をつついたような活気が街に溢れ、長い長い冬眠から覚めて、老も若きも、町民の面には、一様に、何となく「期待」が輝くのである。実際、この町の人々は、一ヶ年の商を、たった二ヶ月の「夏」に済ませてしまうのであった。
七月!
既に藤の花も散り、あのじめじめとした悒鬱な梅雨が明けはなたれ、藤豆のぶら下った棚の下を、逞ましげな熊ン蜂がねむたげな羽音に乗って飛び交う……。
爽かにも、甘い七月の風――。
とどろに響く、遠い潮鳴り、磯の香――。
「さあ、夏だ――」
老舗の日除は、埃を払い、ペンキの禿げた喫茶店はせっせとお化粧をする――若い青年たちは、又、近く来るであろう別荘のお嬢さんに、その厚い胸板を膨らますのである。
海岸には、思い立ったように、葭簀張りのサンマアハウスだの、遊戯場だの、脱衣場だのが、どんどん建てられ、横文字の看板がかけられ、そして、シャワーの音が奔る――。
ドガァーン。ドガァーン。
海岸開きの花火は、原色に澄切った蒼空の中に、ぽかり、ぽかりと、夢のような一塊りずつの煙りを残して海面に流れる。
――なんと華やかな海岸であろう。
まるで、別の世界に来たような、多彩な幕が切って落されるのだ。
紺碧の海に対し、渚にはまるで毒茸の園生のように、強烈な色彩をもったシーショアパラソル、そして、テントが処せまきまでにぶちまかれる。そこには、その園生の精のような溌剌とした美少女の群れが、まる一年、陽の目も見なかった貴重な肢体を、今、惜気もなく露出し、思い思いの大胆な色とデザインの海水着をまとうて、熱砂の上に、踊り狂うのである。
――なんと自由な肢体であろう。
それは、若き日にとって、魅力多き賑わいである。
二
胸を病んだ白藤鷺太郎は、そのK――町の片隅にあるSサナトリウムの四十八号室に居た。