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TORENDIA

「満洲国各民族創作選集」選者のことば

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

満洲で生まれつつある文学と、それに携わる作家たちの可能性を論じる。多民族が混在する新国家において、それぞれの伝統や生活から国民的意識が芽生え、前例のない精神の典型が示されることへの期待を綴る。根こぎにされた文学の表情を脱し、現実の複雑な相貌を直視することで、将来的に独自の文学史が形成される展望を述べる。併せて、日本と満洲の両国に対し、才能ある若手作家の作品を紹介する本選集の持つ意義と重要性を説く。

岸田國士

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🎧 「満洲国各民族創作選集」選者のことば / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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満洲に文学が生れようとしてゐる。多くは満洲の文学を生まうとする人たちの手によつてである。

私は先年満洲のところどころを歩いて、そこで新しい国が興り、いくつかの民族のまつたく異つた伝統と生活のうちから、どこでも万人共通の歴史がすでに呼吸しはじめてゐるのを感じ、これがやがて民族の特殊性を超えたのつぴきならぬ国民的意識を形づくつて行つたならば、非常に多彩な、前例のない精神の一典型を示すに至るであらうといふ期待をもたされたのである。

いくつかの言葉で書かれたこれらの作品のそれぞれは、或はまだ日本文学であり、中国文学であり、ロシア文学であるかもわからない。しかし、文学を育くむ環境と時代の影響は、作家が意識するとしないとに拘らず、その思考と感性のうへにはつきり映らずにはゐない。私は満洲の文学が若ければ若いほど大きな希望をつなぐものである。なぜなら、ほんたうの伝統といふものは恒に年老いないものと信じるからである。

「根こぎにされた」文学の表情が、これらの作品のあるものゝうちに全然ないとは言へまい。しかしながら、将来は、個人的にみても、また満洲それ自体としてみても、かくの如き表情は一日も早く払拭せらるべきであり、作家も亦おそらくその業蹟を通じて、諸民族の協力による国土の発展に寄与することを念願とするに至るであらう。さうなつてこそ、満洲の文学史は、はじめて独自の頁を占めることになり、個々の作品は、文字通り古典的価値をもち得るのである。

問題はたゞ、観念の操作によつて、かゝる姿勢をことさら作品にとらしめることではない。現実の複雑な相貌を直視して、真に世紀の胎動とも称すべきものを感得しなければならぬ。懐疑と希望とを分つ一線がそこにある。今や、如何なる作家も正にその一線の上に立つて己れの愛するものゝために道を指し示す役割を負うてゐるのである。

それはさうと、私は、この集に収められた作品のすべてを読む暇がなく、選はおほかた川端、島木両氏にお委せしたのであるが、その結果については、両氏を信頼する私としてもちろん共同の責任を負ふつもりである。

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