木枯の吹くころ
本文約9,100字 ・ 読了時間 約19分
あらすじ(AIが作成しました)
左目が義眼の太吉は、激しいクシャミの反動で義眼を囲炉裏に落とす。情婦の久良との関係や周囲からの心ない中傷に苦悩しつつ、太吉は金策を求める旅人と共に生きる。ある日、太吉を妬む男が激しい腹痛に襲われ、旅人はその介抱を余儀なくされる。本作は、窮屈な生活の中にある太吉と久良の男女の絆や、周囲の冷たい視線、そして彼らを取り巻く過酷な現実を、水車小屋周辺の光景と共に描き出す。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
そとは光りに洗はれた月夜である。窓の下は、六尺あまりの探さと、三間の幅をもつた川だが、水車がとまると、水の音は何んなに耳を澄ましても聴えぬのだ。
「寒いのに何故、窓をあけておかなければならないのだ?」
俺は囲炉裡のふちで、赤毛布にくるまつただるまであつた。彼は返事もせぬのである。
俺たちの頭の上のラムプは、暗かつた。太吉は、むつと腕を組んで、ラムプよりも明るい月の光りが吻つと煙つてゐる窓を視詰めてゐるだけだつた。彼の膝の上には編みかけの草鞋がのつてゐる。太吉は左の眼が義眼なので、手仕事に疲れやすかつた。彼は、体裁を顧慮することなく、また気短かで、平気で安価の眼玉を購ふので、それは目蓋から喰み出して、右の眼と色が異つてゐた。俺は彼の眼を見ると、時々憎みを感じた。
だが光りを浴びて、彼の眼玉は高価の品に似た。左右の色も区別がなかつた。――彼は再び膝の上に眼を落して、仕事にとりかかつた。右の眼は稍々悲し気にうつむき、余念なく人生をあきらめてゐるかのやうであつたが、左のはぎらりと飛び出して、俺の方を睨んでゐた。このために彼は、つい多くの人達の感情を害した。友達は彼にいつも高価品を購ふことをすすめるのだが、ひと月に少くとも一度ぐらゐは破壊の憂目を見るので、とても買ひ切れぬと彼はこぼした。
彼は四十歳だが、結婚の経験を持たなかつた。
微かな鼾きがするので、見ると、彼は草鞋の端をつまんだまま、うつとりと居眠りであつた。義眼の眼蓋は主人が眠つても、笑つても決してしまらなかつたから、見る者は屡々本尊の心的状態を見誤つた。――笑ふ――と云へば、彼はわらふ場合には目蓋を閉ぢるのが癖である。然し、いつにも俺は彼の笑ひ声に接した験しもないのである。
太吉が、その時突然蟇のやうに仰向くと、突拍子もない大きなクシヤミを発した。これがはじまると、十も二十も連続するのが彼の癖だつた。
炭をついでゐた俺は、
「だから、窓を閉めれば好いのに……」