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TORENDIA

赤坂城の謀略

本文約7,600字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

赤坂城に籠城する楠正成は、圧倒的な勢力の関東勢に対して籠城の継続は困難と判断し、偽の自害で敵を欺く策を講じる。城を焼いて脱出した正成は、大塔宮護良親王と合流し再挙を期す。その後、天王寺周辺で六波羅探題の軍勢を翻弄し、追撃してきた宇都宮公綱に対しても、無用な犠牲を避けるべく陣を引く。正成は、将来を案じ四天王寺に伝わる日本一州の未来記を拝見し、戦乱の世の行方と思索を巡らせながら、朝廷への忠義を誓う。

国枝史郎

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一

(これは駄目だ)

と正成は思った。

(兵糧が尽き水も尽きた。それに人数は僅か五百余人だ。然るに寄手の勢と来ては、二十万人に余るだろう。それも笠置を落城させて、意気軒昂たる者共だ。しかも長期の策を執り、この城を遠征めにしようとしている。とうてい籠城は覚束ない)

そこで、正成は将卒をあつめ、しみじみとした口調で申し渡した。

「この間は数箇度の合戦に打ち勝ち、敵を亡ぼすこと数を知らず、正成くれぐれも有難く思うぞ。が、敵大勢なれば物の数ともせず、囲みを解いて去るべくも見えぬ。然るに城中はすでに食尽き、援兵の来る望みもない。……元来天下の衆に先立ち、草創の功を志す以上、節に当り義に臨んでは、命を惜むべきではない。とはいえ事に臨んで恐れ、謀を好んで為すは勇士の為すところと、既に孔夫子も申しておる。されば暫くこの城を落ちて、正成自害したる態になし、敵の耳目を一時眩まそうと思う。……正成自害したりと思わば、関東勢さだめて喜びをなし、下向するに相違ない。下らば正成打って出で、また上らば山野にかくれ、四五回東国勢を悩まさんか、彼等といえども退屈するであろう。この時を以て敵を殲滅するこそ妙策!」

これを聞くと将卒共はしばらくの間は、言葉も出さず黙っていたが、やがて口々に云い出した。

「君公の謀計にござりまする。粗略あろうとは存じられませぬ」

「早々御落去なさりませ」

「再挙の時こそ待ち遠しゅうござりまする」

そういう将卒の顔には、何等の憂の影もなかった。

我等が信ずる多門兵衛様が――日本の孔明、張良が、城を開こうとするのである。開くべき筋があればこそ、こうして城を開くのであって、尋常一様の落城ではない。――という考えがあるからであった。

(では)

と正成は決心し、城の落ちる日を心待ちに待った。

その間に正成は士卒を督し、城中に大なる穴を掘らせ、堀の中にて討たれた死人の中、二三十人ばかりを持ち来たしその穴の中へ埋没させ、その上に炭薪を積み重ねさせた。

と、幸いにもその翌々日、風雨はげしく荒れた。

(時こそ来たれり)

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