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TORENDIA

第十八号室より

本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

腹が膨れ出した不調を抱える作者は、知人の勧めで診察を受け慢性腹膜炎と診断される。痛みを感じないため実感が湧かない一方で、日々の忙しい生活と重圧から逃れることを密かに望んでいた作者は、入院を決意する。入院の手続きを経て、死を意識させるような病院の重い空気の中で生活を送る様子を綴る。本稿は、病気を受け入れがたい心理や、過酷な日常から解放を求める複雑な心情を描く。

石川啄木

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🎧 第十八号室より / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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一

いつとなく腹が膨れ出した。たゞそれだけの事であつた。初めは腹に力がたまつたやうで、歩くに氣持が可かつた。やがてそろ/\膨れが目に付くやうになつた時は、かうして俺も肥えるのかと思つた。寢たり起きたりする時だけは、臍のあたりの筋肉が少し堅くなり過ぎるやうだつたが、それも肥滿した人の起居の敏活でないのは、矢つぱりかうした譯だらう位に思ひ過ごしてゐた。痛くも痒くもなかつた。

或日友人に、「君の肥り出した時も、最初は腹からぢやなかつたか。」と聞いて見た。以前はひよろひよろ痩せてゐたのが、久しぶりで去年逢つた時からメリケン粉の袋のやうに肥つてゐる男である。友人は眞面目な顏をして、「そんな事はない。身體全體が何時となく肥つて來たのだ。」と言つた。予は思はず吹き出した。さうして、成程さうに違ひない、腹だけ先に肥る筈はないと思つた。

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