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TORENDIA

豚肉 桃 りんご

本文約5,000字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

軽井沢の豚肉料理や麻布の仕立屋の庭で食べた林檎、山王様への遠足など、幼少期から戦後の生活を通じて得た食と情景の記憶を綴る。著者は、かつて教わった豚肉の蒸し煮料理を鍋一杯に作れぬ困窮した生活を振り返り、砂糖をかけて食べた桃や酸っぱい林檎の味から、当時の士族の暮らしや、異国の詩人との出会い、神社の風景を回想する。過去の記憶の中にある暑さや倦怠感を含めた子供時代の複雑な心象を、穏やかな筆致で描く随筆である。

片山廣子

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🎧 豚肉 桃 りんご / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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軽井沢の家でY夫人から教へて頂いた豚肉のおそうざい料理はさぞおいしいだらうと思ひながら、まだ一度も試食したことがない。(その夏は中国と日本とのあひだが険しい雲ゆきになつた年であつた、しかし私たちはまだ軽井沢に避暑に行くだけの心の余裕をもつてゐた。)それはY家の御主人がドイツに留学してをられた時に宿の主婦が自慢に時々こしらへたおそうざい料理だつたさうである。豚肉を三斤位のかたまりに切つて肉のまはりを塩と胡椒でまぶし深い鍋に入れて、葱を三寸ぐらゐの長さに切り肉のまはりに真直ぐに立てて鍋いつぱいにつめ込むのである。水も湯も少しも入れずに葱と肉から出る汁で蒸煮のやうに三時間ぐらゐも煮ると、とろけるやうにやはらかい香ばしい料理ができるといふお話であつた。

その夏その料理を教へていただいて帰京してからの私たち東京人の生活はだんだん乏しくなつて、やがて一斤の肉さへ容易に手に入れがたくなり、葱なぞは四五本も買へれば運がよいと思ふやうになつた。その貧乏生活が十年以上も続いて漸くこのごろはどんな食料でも手に入るやうになつて来たけれど、しかし店々にどんな好い物が出揃つても、大きな買物をすることは今度は私のふところ勘定がゆるさなくなつて、私の家の大きな鍋に三斤の肉の塊りとそれを包む葱を煮ることはまだまだ出来ずにゐる。

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