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TORENDIA

地山謙

本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

Tの勧めで易を学び始めた筆者は、病気と闘い続けた自身の半生を省みて一生の卦を占う。予想に反して現れた「地山謙」は、へりくだる謙遜の精神と、地味ながらも堅実に務めを果たし終えることの吉兆を説いていた。自らを地の下に埋もれて働く存在と捉え、迷い苦しむ時にこの教訓を護符のように心に刻む筆者が、その平凡で堅実な教えに救いを見出し、力強く日々を歩む姿勢を綴る随筆。

片山廣子

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🎧 地山謙 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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Tが私のために筮竹や木を買つて来て、自分で易を立てる稽古をするやうすすめてくれたのは、もうずゐぶん古い話であつた。お茶やお花のやうに易のお稽古をするといふのも変な言ひかたであるけれど、初めのうち私はほんとうに熱心にその稽古を続けてゐた。易の理論は何も知らず、内卦がどうとか外卦がかうだとか予備知識をすこしも持たず、ただ教へられたまま熱心にやつてみた。

そのずつと前から、私は易を信じて事ある時には大森のK先生のお宅に伺つて占断をお願ひしてゐたので、火とか水とか、天や地や風や、雷も沢も山も、さういふ象だけはどうにか知つてゐて、おぼつかない素人易者はただもう一心に筮竹を働かしたが、そのうちに筮竹をうごかすことが非常に骨が折れて来て、人に教へられたまま小さい十銭銀貨三つを擲げてその裏面と表面で陰と陽を区別し、六つの銀貨を床に並べてその象が現はれるままをしるした。この方が大そうかんたんであつた。

自分自身の身上相談をしたり、他人の迷ふことがあれば、それについて教へを伺ふこともあつて、私のやうなものがめくら滅法に易を立てて見ても、ふしぎに正しい答へが出た。また或るときはどうにも解釈のむづかしい答へもあつた。ある時、自分の一生の卦を伺つてみようと思つたが、何が出るかその答へには好奇心が持てた。若い時から中年までの私の仕事はおもに病気と闘ふことであつたから(自身の病気でなく、良人の父の病気、良人の長い病気、義妹の長い病気、義弟の病気、それにともなふ経済上の努力、私はまるで看護婦の仕事をしに嫁に来たのだと、それを一種の誇りにも思つて殆ど一生そんな方面の働きばかりしてゐた。)たぶん私の一生の卦は「地水帥」が出るのではないかと心に占つてゐた時、意外にも答へは「地山謙」であつた。私はおもはずあつと驚いて、頭を打たれたやうに感じたのである。

「謙は亨る。君子終り有り吉。○彖伝に曰く、天道は下り済して光明。地道は卑くして上行す。天道は盈るを虧きて謙に益し、地道は盈るを変へて謙に流し、鬼神は盈るを害して謙に福ひし、人道は盈るを悪みて謙を好む。謙は尊くして光り、卑くして踰ゆべからず。君子の終りなり。」

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