子供の時分の話
本文約5,300字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
ある日、村の子供である主人公は、見知らぬあめ売りの誘いに乗り、からくりを見たさについて行く。しかし、それは人さらいの罠であった。箱に押し込められた主人公は、知らない山奥の粗末な家へと連れ去られ、恐ろしい男たちが集まる場所に置き去りにされる。死の恐怖が迫る中、たまたま居合わせた優しい女の助けにより、主人公は脱出を試みる。はたして無事に家へ帰ることができるのか、その命がけの逃走と帰郷の過程を描く物語。
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あめ売りの吹く、チャルメラの声を聞くと、子供の時分のことを思い、按摩の笛の音を聞くと、その人は涙ぐみました。その話を聞かせた人は旅の人です。そして、その不思議な話というのはつぎのような物語です。
* * * * *
町からすこしばかり離れた、小さなさびしい村でありました。村には昔の城跡がありました。ちょうど私と同じい七つ、八つばかりの子供が、毎日五、六人も寄り集まって鬼事をしたり、こまをまわしたりして遊んでいました。
ずっと以前から、この村に一人のあめ売りじいさんが入ってきました。チャルメラを吹いて、小さな屋台をかついで町の方からやってきました。子供らはみんな、このおじいさんの顔をよく知っていました。
私は、昼寝をしている時分に、夢の中でこのチャルメラの声を聞いたこともあります。また外に遊んでいる時分に、かなたの往来にあたって聞いたこともあります。
木の葉が風に光っていたり、とんぼが飛んでいるのを見るよりほかに、変化のない景色は物憂く、単調でありましたから、たまたまあめ売りの笛の音を聞くと、楽しいものでも見つかったように、その方へ駆けていったものです。
このあめ売りじいさんは、城跡の入り口のところに、いつも屋台を下ろしました。そして、村じゅうの子供を呼び寄せるように、遠方を望んで、チャルメラを吹き鳴らしました。じいさんは、もういい年であったとみえて、目のしょぼしょぼとした小じわのたくさんな顔が日に焼けて、黒い色をしていました。
けれど、私は、またこんな無愛想なじいさんを見たことがありません。多くの子供が、こうしてなつかしそうに、慕わしそうにそのそばへ寄ってきましても、つい一度として笑った顔も見せなければ、戯談をいって喜ばせてくれたこともなかったのです。
こうして、そこに二、三十分も屋台を下ろして休んでいますが、もうあめを買ってくれる子供がいよいよないとわかると、じいさんは黙って屋台をかついで、お城の中を通って、かなたの村の方へといってしまいます。私は、いつもさびしそうにして、おじいさんの消えてゆく姿を見送りました。