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TORENDIA

しらかばの木

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

戦地から帰還した秀作は、かつて母と休んだ峠のしらかばの木を訪ねるため、故郷へ向かう馬車に乗る。過酷な戦場での記憶を胸に、帰る場所も迎えてくれる人もない中で、幼い頃に母と見た風景と再会することで再起を求める。馬車の中で乗客や馭者と言葉を交わしながら、秀作は戦火の追憶と母への思慕を抱き、あの日見たしらかばの木が今も立つ峠を目指して、山間の村々を馬車で進んでいく過程を描く。

小川未明

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🎧 しらかばの木 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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さびしいいなかながら、駅の付近は町らしくなっていました。たばこを売る店があり、金物をならべた店があり、また青物や、荒物などを売る店などが、ぼつり、ぼつりと見られました。そして、駅前から、あちらの山のふもとの村々へいく、馬車がとまっていました。いぜんには、バスが往復していたが、戦争がはじまってから、馬車にかわったのでした。

もうほどなく、馬車が出るというので、待合室にいた人々が、箱の中へはいりかけました。なかには大きな荷物をかかえた男がいました。たぶん山間の農家へあきないにいくのでしょう。またはでな日がさを持った、若い女がいました。これは、町へ出て働いているのが、法事かなにかあるので、休暇をもらい、実家へ帰るのかもしれません。ほかに一人、やぶれた学生服を着た少年が乗りました。少年は、このへんのもので用たしにどこへかいくのか、それとも、早く家を出かけて、もう用事をすまして、帰るみちなのかもしれません。それらの人たちといっしょに乗ったのが、このほど戦地から帰還した秀作さんでありました。

いま、お話するのは、その秀作さんのことであります。秀作さんは、やはりあちらの山のふもとに生まれたのでした。幼児のころ父をなくして、その後は、ただ母親一人の手にそだてられて大きくなりました。そして、十五、六のころ、遠い町のほうこうにやられて、そこで一人前の職工となったのですが、かたときも忘れなかった、なつかしい母は、その間に死んでしまいました。

こんど、戦争がはじまると、秀作さんは、寄留先から召集されて、勇ましく出征したのであります。

あのはてしない戦線で、あるときは、にごった大きな川を渡り、あるときは、けわしい岩山をふみこえて、頑強にていこうする敵兵と、すさまじい砲火をまじえ、これを潰滅し、逃げるをついげきして、前進、また前進したのでありました。

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