本文へ移動
TORENDIA

古いはさみ

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

英ちゃんのお家で古くから使われてきたはさみは、お姉さんが幼い頃から愛用し、やがて一家の記憶を刻みながら年を重ねていく。切れ味が鈍り、粗末に扱われる時期があっても、はさみは過去の華やかな思い出を糧に静かに耐え忍ぶ。やがて成長した英ちゃんが学校で手工に使うことになり、家族の愛と安心を象徴する道具として、再び新しい日々を歩み始める様子を描く。

小川未明

速度
🎧 古いはさみ / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

どこのお家にも、古くから使い慣れた道具はあるものです。そしてそのわりあいに、みんなからありがたがられていないものです。英ちゃんのおうちの古いはさみもやはりその一つでありましょう。

英ちゃんの、いちばん上のお姉さんが小さいときに、そのはさみで折り紙を切ったり、また、お人形の着物を造るために、赤い布や紫の布などを切るときに使いなされたのですから、考えてみるとずいぶん古くからあったものです。

その時分にはこんな黒い色でなく、ぴかぴか光っていました。そして刃もよくついていてうっかりすると、指さきを切ったのであります。

「よく気をつけて、おつかいなさい。おててを切りますよ。」と、お母さんが、よく、ご注意なさったのでした。

お姉さんは、おちついた性質で、お勉強もよくできた方ですから、めったに、このはさみで指さきを切るようなことはしませんでした。使ってしまえば、箱の中に、ちゃんとしまっておきました。

お姉さんが、まだ十か十一のころです。ある日のこと、

「あれ、なあに。」と、ふいにお母さんにききました。

「なんですか。」と、お母さんは、おわかりになりませんでした。

「アカギタニタニタニって?」

「あああれですか、はさみ、ほうちょう、かみそりとぎという、とぎ屋さんですよ。」と、お母さんはお笑いになりました。

「私の持っている、はさみといでもらっていい。」と、お姉さんがききました。

このときの、アカギタニタニタニがいつまでもお家の笑い話の種となりました。

「ほら、アカギタニタニタニがきましたよ。」と、とぎ屋さんが、まわってくると、お母さんが笑っておっしゃいました。それからいくたびこのはさみは、とぎ屋さんの手にかかったでしょう。

お姉さんは、女学校を卒業なさると、お針のけいこにいらっしゃいました。そのときには、このはさみは、もう、そんな役にたたなかったので、新しい、もっと大きなはさみをお求めになりました。そして、いままでのはさみは、平常、うちの人の使い用とされてしまいました。けれど、ちょうど、英ちゃんの上の兄さんが、いたずら盛りであって、このはさみで、ボール紙を切ったり、また竹などを切ったりしたのです。

小川未明の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本