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TORENDIA

宮本武蔵

本文約183,300字 ・ 読了時間 約367分

あらすじ(AIが作成しました)

伏見桃山や大坂城を舞台に、関ヶ原の戦い後の政治的な激変の中で人々が翻弄される。城普請の石曳き労働者として困窮する本位田又八や、武蔵を追い求めるお通と城太郎、そして又八の母であるお杉隠居が京都で交差する。徳川家の勢威が強まる社会情勢を背景に、それぞれの思惑や苦悩が絡み合う中で、世間の注目は新たな兵法者として名を上げる武蔵の動向へと集まっていく。

吉川英治

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西瓜

一

伏見桃山の城地を繞っている淀川の水は、そのまま長流数里、浪華江の大坂城の石垣へも寄せていた。――で、ここら京都あたりの政治的なうごきは、微妙に大坂のほうへすぐ響き、また大坂方の一将一卒の言論も、おそろしく敏感に伏見の城へ聞えて来るらしい。

今――

摂津、山城の二ヵ国を貫くこの大河を中心にして、日本の文化は大きな激変に遭っている。太閤の亡き後を、さながら落日の美しさのように、よけいに権威を誇示して見せている秀頼や淀君の大坂城と、関ヶ原の役から後、拍車をかけて、この伏見の城にあり、自ら戦後の経綸と大策に当たり、豊臣文化の旧態を、根本から革めにかかっている徳川家康の勢威と――その二つの文化の潮流が、たとえば、河の中を往来している船にも、陸をゆく男女の風俗にも、流行歌にも、職をさがしている牢人の顔つきにも、混色しているのだった。

「どうなるんだ?」

と、人々はすぐそういう話題に興味を持つ。

「どうって、何が?」

「世の中がよ」

「変るだろう。こいつあ、はっきりしたことだ。変らない世の中なんて、そもそも、藤原道長以来、一日だってあった例はねえ。――源家平家の弓取が、政権を執るようになってからは猶さらそいつが早くなった」

「つまり、また戦か」

「こうなっちまったものを、今さら、戦のない方へ、世の中を向け直そうとしても、力に及ぶまい」

「大坂でも、諸国の牢人衆へ、手をまわしているらしいな」

「……だろうな、大きな声ではいえねえが、徳川様だって、南蛮船から銃や弾薬をしこたま買いこんでいるというし」

「それでいて――大御所様のお孫の千姫を、秀頼公の嫁君にやっているのはどういうものだろ?」

「天下様のなさることは、みな聖賢の道だろうから、下人にはわからねえさ」

石は焼けていた。河の水は沸いている。もう秋は立っているのだが、暑さはこの夏の土用にも勝って酷しい。

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