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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約11,600字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

駒込の大地主・漆原家の主人死後、残されたはずの財産が行方不明となり、支配人が空井戸で、続いて後妻が土蔵で不審な死を遂げる。錢形平次は、現場に残された痕跡から、財産を独占しお新との婚姻を画策する手代・春之助の犯行を疑う。平次は、春之助が主人である重三郎の仕掛けた罠を利用し、支配人とお豊を言葉巧みに誘い出して殺害した手口を論理的に解明していく。

野村胡堂

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一

「八、丁度宜いところだ。今お前を呼びにやらうと思つて居たが――」

平次はお勝手口から八五郎の迎へに飛び出さうとして居る女房のお靜を呼び留めて、改めてドブ板を高々と踏み鳴らして來る、八五郎の長い影法師を迎へ入れたのでした。

「親分、お早やうございます」

「お早やうぢやないぜ、世間樣はもう晝飯の支度だ」

やがて江戸の街も花に埋もれやうといふ三月の中旬、廣重の鞠子の繪を見るやうに、空までが桃色に燻じたある日のことでした。

「何んか御馳走の口でもあるんですか、――尤も先刻朝飯が濟んだばかりだ――」

「あんな野郎だ。呆れてものが言へねえ、――お前路地の入口の邊で五十年配の下男風の男に逢つた筈だが」

「逢ひましたよ。ももんがあ見たいな――あの親爺が施主なんで?」

「馬鹿だなア、まだ喰ひ氣に取つ憑かれてやがる、――あれはお前駒込の大分限で、大地主の漆原重三郎の召使だ」

「へエ?」

「その漆原家に不思議なことがあつたので、娘のお新といふのが、下男の茂吉をそつと俺のところへよこしたのだ。直ぐ來て下さるやうにと、折入つての頼みだが、雲を掴むやうな話で、氣が乘らねえから、お前に瀬踏をして貰はうと思つたのだよ」

「へエ? あつしも氣が乘らなかつたらどうしませう」

斯う言つた遠慮のない八五郎です。

「馬鹿野郎、俺はあの邊に顏を知られ過ぎて居るし、冒頭つから人騷がせをしたくないからお前を頼んでゐるんぢやないか」

平次は到頭癇癪玉を破裂さしてしまひました。少しでも新しい事件を手掛けさせて、腕も顏もよくさせようといふ親心も知らずに、仕事の選り好みなどする八五郎が齒痒かつたのでせう。

「だから行きますよ。行かないなんて言やしません。雲だつて霧だつて掴みますとも」

「それに使をよこした漆原の主人の妹のお新といふのは駒込一番の良いきりやうで、吉祥寺が近いから、語り傳への八百屋お七の生れ變りだらうといふ評判を取つてゐるさうだ」

「行きますとも、そいつは是非あつしをやつて下さい」

「良い娘と聽くと、いきなり乘り出して來るから現金過ぎて腹も立たねえ」

「仕事の張合ひといふものですよ。親分、一體駒込の漆原にどんなことがあつたんで?」

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