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TORENDIA

花の咲く前

本文約6,400字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

紙芝居の赤トラの話に共感し、叔父に虐げられる老犬ジャックを密かに可愛がる少年幸吉。ある日、犬殺しに追われて物置に隠れたジャックを救い出した彼は、後に田舎へ帰る旅路の中で、その出来事を夢に重ねる。本作は、冷たい都会で孤独を感じながらも、弱い存在を慈しむ少年の優しい心と、故郷への郷愁、そして過ぎ去った日々の切なさを情感豊かに描く物語である。

小川未明

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🎧 花の咲く前 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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一

赤い牛乳屋の車が、ガラ、ガラと家の前を走っていきました。幸吉は、春の日の光を浴びた、その鮮やかな赤い色が、いま塗りたてたばかりのような気がしました。それから、もう一つ気のついたことは、この車がいってしまってからまもなく、カチ、カチという拍子木の音がきこえたことです。昨日もそうであったし、一昨日もそうであったような気がするのです。

「不思議だなあ、牛乳屋の車と、紙芝居のおじさんと、どうして、いつもいっしょにくるのだろうな。」と、ブリキ屋の店から、外を見ていた幸吉は、思ったのでした。

紙芝居は、今日も、赤トラのつづきをやるにきまっています。赤トラの話は、なかなか長編なんでした。おじさんはじめ、子供たちは、みんな赤トラを悪いねこだといっていましたけれど、幸吉は、心の中で赤トラに同情していました。なぜなら、もとをいえば人間が悪いからです。三びきの子を産むと、一ぴきは、近所の子供が追いかけて、どぶの中へ落としたし、一ぴきは、だれかが連れていってしまったし、もう一ぴきは、車に足をひかれたので、母ねこは、そのたびに悲しんで気が狂いそうになり、ついに仕返しをしようと決心するようになりました。赤トラは人の家へ入り込んで、はじめのうちは、金魚をとったり、カナリヤを食べたり、お膳についているお魚をさらったりしたくらいのものですが、だんだんいたずらが募って、赤ん坊をひっかいたり、お嬢さんの手提を失くしたり、取り返しのつかないことをするようになりました。しまいには、「赤トラ」と、きくと、みんなが震えあがるようになりました。

中には、槍や、鉄砲を用意しておいて、きたら退治してやろうと待ちかまえているものもありましたが、神通力を得ました赤トラは、なかなか人間の目には入りませんでした。

いつ忍び込んできて、いつそんないたずらをするかわからないので、まったく悪魔のしわざとしか思われなくなりました。町の人たちは、夜になると心配でろくろく安眠はできなかったのです。

ここにK技師という、若い発明家があって、赤トラの話をきくと、たいそう腹を立てました。

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