柿
本文約12,400字 ・ 読了時間 約25分
あらすじ(AIが作成しました)
幼馴染として親しく育った牧野辰之助を想い続ける小房と、その兄・兵馬。ある夜、悪酔いした辰之助が訪ねてくるなど交流が続く中、牧野家の事情による辰之助の急な左遷と出奔が二人の運命を揺るがす。兵馬は辰之助の潔白を信じ、小房の密かな恋心を成就させるため、彼を追って旅立つ。二人の記憶に残る「熟柿」に込められた無言の契りを胸に、兵馬は辰之助の元へ疾走する。再会と、秘められた真実を巡る物語。
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一
「おい牧野、起きないか」
「勘弁して呉れ、本当にもう駄目だ」
「……仕様がないな」
起しあぐねて兵馬は振返った。
「ちょっと手をかして呉れ小房、どうしても動きそうもないぞこれは」
「兄上さまがお悪いのですわ」
小房はやさしく兄を睨んだ。
「幾らお止めしてもきかずに面白がってお飲ませなさるのですもの、こんなにお酔わせして了って、……きっとお苦しいわ」
「己もこんなに酔わせるつもりはなかったさ」
兵馬は妹の非難をそらすように、酔い倒れている牧野辰之助を抱き起しながら、低い声で云った。
「なんだか今夜は妙に、牧野がなにか話しだしそうな気がしたものだから、酔わせれば楽に云えるだろうと思ってつい度を過して了ったんだ」
「なにか御相談ごとでもお有りでしたの」
「相談という訳ではないが、……なんだかそんな風に思えたので、……つまり」
兵馬は妙に口籠って了った。小房はそれではっとしながら、慌てて寝衣をひろげ、辰之助の肩へと着せかけた。
「灯は持って行ってあるな」
「はい」
「では運んで行ってやろう」
着替えをさせた辰之助の体を、兵馬は担ぐようにして次の間へ運び込んだ。
婢のかねと共に酒席の後片付けをしてから、酔い覚めの水を持って小房が寝所へ入って行くと、暗くしてある有明行灯の光の下で、辰之助がふっと夜具の中から笑顔を見せた。
「すっかり御迷惑を掛けて了いました」
「いいえ却ってわたくし共こそ、……兄の悪い癖でとんだ御迷惑をお掛け致しました、お苦しゅうございましょう」
「なに本当はまだ酔ってはいないのです」
辰之助は笑って見せながら、
「ああしないと兵馬はいつまでも飲ませますからね、酔った真似をしただけですよ。然し拙者も、兵馬のお蔭で段々と強くなりました」
「お水を召上るとお楽になりますわ」
「有難う、なに酔ってはいないんですから」
そう云いながら、辰之助の眼は微笑したまま自然と閉じて了った。
日頃から兄の面倒をみている小房には、顔色と呼吸の匂いで辰之助の悪酔いをしていることはすぐに分った、なんでもない風を装っているが、恐らくどうしようもないほど苦しいに違いない。……小房はそっと立上ると、耳盥に紙を敷いたのを持って来て枕許へ置いた。