TRENDIA CLASSIC

年とったカシワの木のさいごの夢

ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen

1 / 10

(クリスマスのお話)

ひろいひろい海にむかった、きゅうな海岸の上に、森があります。その森の中に、それはそれは年とった、一本のカシワの木が立っていました。年は、ちょうど、三百六十五になります。でも、こんなに長い年月も、この木にとっては、わたしたち人間の、三百六十五日ぐらいにしかあたりません。

わたしたちは、昼のあいだは起きていて、夜になると眠ります。眠っているときに、夢を見ます。ところが、木は、ちがいます。木は、一年のうち、春と夏と秋のあいだは起きていて、冬になってはじめて、眠るのです。冬が、木の眠るときなのです。ですから、冬は、春・夏・秋という、長い長い昼のあとにくる、夜みたいなものです。

夏の暑い日には、よく、カゲロウが、この木のこずえのまわりを、とびまわります。カゲロウは、いかにも楽しそうに、ふわふわダンスを踊ります。それから、この小さな生きものは、カシワの木の大きな、みずみずしい葉の上にとまって、ちょっと休みます。そういうときには、心から幸福を感じています。

すると、カシワの木は、いつも、こう言いました。

「かわいそうなおちびさん。たった一日が、おまえにとっての一生とはねえ。なんとみじかい命だろう! まったくもって、悲しいことだなあ!」

「悲しいことですって?」と、そのたびに、カゲロウは言いました。「それは、どういうことなの? なにもかもが、こんなに、たとえようもないほど明るくて、暖かくて、美しいじゃありませんか。あたしは、とってもしあわせなのよ!」

「だが、たった一日だけ。それで、なにもかもが、おしまいじゃないか」

「おしまい?」と、カゲロウは言いました。「なにがおしまいなの? あなたも、おしまいになる?」

「いいや。わしは、おそらく、おまえの何千倍も生きるだろうよ。それに、わしの一日というのは、一年の、春・夏・秋・冬ぜんぶにあたるのだ。とても長くて、おまえには、かぞえることはできんだろうよ」

ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersenの他の作品

アンネ・リスベット
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
いいなずけ
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
家じゅうの人たちの言ったこと
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
いたずらっ子
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
アヒルの庭で
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
かけっこ
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
イーダちゃんのお花
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
絵のない絵本
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
コウノトリ
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
お墓の中の坊や
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
カラー
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen
幸福な一家
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen