家の中は、ふかい悲しみで、いっぱいでした。心の中も、悲しみで、いっぱいでした。四つになる、いちばん下の男の子が、死んだのです。この子は、ひとり息子でした。おとうさんと、おかあさんにとっては、大きなよろこびであり、また、これから先の希望でもあったのです。
この子には、ねえさんがふたり、ありました。上のねえさんは、ちょうどこの年、堅信礼を、受けることになっていました。ふたりとも、おとなしくて、かわいらしい娘たちでした。けれども、死んだ子供というものは、だれにとっても、いちばんかわいいものです。それに、この子は末っ子で、ひとり息子だったのです。ほんとうに、悲しい、つらいことでした。
ねえさんたちは、若い心をいためて、悲しみました。おとうさんとおかあさんが、なげき悲しんでいるのを見ると、いっそう悲しくなりました。おとうさんは、深くうなだれていました。おかあさんは、大きな悲しみにうちまかされていました。
おかあさんは、夜も昼も、病気の坊やにつききりで、看病したり、だいてやったりしたものでした。おかあさんは、この子が、自分の一部だということを、はっきりと感じました。坊やが死んで、お棺に入れられ、お墓の中にうめられるなどということは、おかあさんにとっては、どうしても考えることができませんでした。神さまだって、まさか、この子をお取りあげになるようなことはなさるまい、と、おかあさんは思ったのです。それなのに、その坊やが、とうとう、死んでしまったのです。おかあさんは、あまりの悲しさに、われを忘れてこう言いました。
「神さまは、ごぞんじないのですね。神さまは、なさけを知らないしもべを、この世におつかわしになったのです。なさけしらずのしもべたちは、自分かってなふるまいをして母親の祈りを、聞いてはくれないのです」