アンネ・リスベットは、まるで、ミルクと血のようです。若くて、元気で、美しい娘です。歯はまっ白に、ピカピカ光り、目はすみきっています。足は、ダンスをしているように、軽々としています。気持は、それよりももっと軽くて、陽気です。
で、このアンネ・リスベットは、どうなったでしょうか。赤ん坊の、おかあさんになりました。「みにくい赤ん坊」のおかあさんに。――そうです。赤ん坊は、きれいな子ではありませんでした。その子は、生れるとすぐ、みぞほり人夫の、おかみさんのところに、あずけられてしまいました。
おかあさんのアンネ・リスベットは、伯爵さまのお屋敷に、働きに行きました。アンネ・リスベットは、絹とビロードの着物を着て、りっぱな部屋の中に、すわっていました。アンネ・リスベットのところには、すきま風一つ、吹きこんではきませんでした。だれも、アンネ・リスベットに、らんぼうな言葉をかけてはなりませんでした。そんなことをすれば、アンネ・リスベットのからだに、さわるかもしれませんから。なにしろ、アンネ・リスベットは、伯爵さまの、赤ちゃんの、うばなのですから。
赤ちゃんは、王子のようにじょうひんで、天使のようにきれいでした。アンネ・リスベットは、この赤ちゃんを、心から、かわいがりました。ところが、自分の赤ん坊は、みぞほり人夫の家にいました。この家では、おなべがにたって、ふきこぼれるようなことは、ありませんでした。けれども、赤ん坊の口だけは、しょっちゅうあわをふきこぼしていました。
この家には、たいていのとき、だれもいませんでした。赤ん坊が泣きわめいても、それを聞きつけて、あやしてやろうとする者がいないのです。赤ん坊のほうは、泣いているうちに、いつのまにか、寝いってしまいます。眠ってさえいれば、そのあいだは、おなかがへっていることも、のどがかわいていることも、感じないものです。ほんとうに、眠りというものは、すばらしい発明ですよ。