あるところに、ひとりのりっぱな紳士がいました。この紳士は靴ぬぎと、それにくしを一つ、持っていました。これが、この人の持物のぜんぶだったのです。そのかわり、この紳士は、世界でいちばんきれいなカラーを持っていました。これから、わたしたちが聞くお話は、このカラーについてのお話なんですよ。
さて、カラーは年ごろになりましたので、ぼつぼつ、結婚したいと思いました。すると、あるとき、ぐうぜん、せんたくものの中で、靴下どめに出会いました。
「これは、これは!」と、カラーは言いました。「いままでわたしは、あなたのようにすらりとして、じようひんで、しかも、しとやかで、きれいなかたを、見たことがありません。お名前をうかがわせていただけませんか?」
「申しあげられませんわ」と、靴下どめは言いました。
「どちらにおすまいですか?」と、カラーはたずねました。
けれども、靴下どめは、ひどくはずかしがりやだったものですから、そんなことに答えるのは、なんだかおかしな気がしました。
「あなたは、きっと、帯なんですね」と、カラーは言いました。「それも、着物の下にしめる帯なんでしょう。あなたが、じっさいの役にも立ち、飾りにもなるくらいのことは、ぼくにだって、ちゃあんとわかりますよ。かわいいお嬢さん!」
「あたしに話しかけないでください」と、靴下どめは言いました。「あなたにお話するきっかけをあげたつもりはありませんわ」
「とんでもない、あなたのようにおきれいならば」と、カラーは言いました。「きっかけなんて、じゅうぶんありますよ」
「あんまり、そばへ寄らないでくださいな」と、靴下どめは言いました。「あなたって、ずいぶん、ずうずうしそうですもの」
「ぼくは、これでもりっぱな紳士ですよ」と、カラーは言いました。「ぼくは、靴ぬぎや、くしを、持っているんですからね」
といっても、これは、ほんとうのことではありません。靴ぬぎや、くしを持っているのは、カラーのご主人なんですからね。カラーは、ほらをふいたのでした。
「そばへ来ないでください」と、靴下どめは言いました。「あたし、こういうことに、なれていないんですもの」