いかにも楽しそうな顔つきをした、かなりの年の人が、汽船に乗っていました。もし、ほんとうにその顔つきどおりとすれば、この人は、この世の中で、いちばんしあわせな人にちがいありません。じっさい、この人は、自分で、そう言っていましたよ。わたしは、それを、この人自身の口から、ちょくせつ聞いたのです。
この人は、デンマーク人でした。つまり、わたしと同じ国の人で、旅まわりの芝居の監督だったのです。この人は、一座のものを、いつもみんな、引きつれていました。それは、大きな箱の中にはいっていました。というのも、この人は人形つかいだったからです。この人の話によると、生れたときから陽気だったそうですが、それが、ある工科大学の学生によって清められ、そのおかげで、ほんとうにしあわせになったということです。
わたしには、この人の言う意味が、すぐにはわかりませんでしたが、まもなく、この人は、その話をすっかり説明してくれました。これが、そのお話です。
あれはスラゲルセの町でしたよ、と、この人は、話しはじめました。わたしは、駅舎で芝居をやっていたんです。芝居小屋もすばらしいし、お客さんもすばらしい人たちでした。といっても、おばあさんが二、三人いたほかは、みんな堅信礼もすんでいない、小さなお客さんたちでしたがね。
するとそこへ、黒い服を着た、学生らしい人がきて、腰かけました。その人は、おもしろそうなところになると、かならず笑って、手をたたいてくれました。こういう人は、ほんとにめずらしいお客さんなんですよ。そこで、わたしは、この人がどういう人か、知りたくなりました。人に聞いてみると、地方の人たちを教えるために、つかわされてきている、工科大学の学生だということでした。
わたしの芝居は八時におしまいになりました。だって、子どもたちは、早く寝なければいけませんでしょう。わたしたちは、お客さまのつごうを考えなければなりませんからね。九時になると、学生は講義と実験をはじめました。今度は、わたしが聞き手にまわりました。