ペンとインキつぼ
本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
詩人の机の上で、自分の中からあらゆる物語や感情が生まれると自負するインキつぼと、自ら書いているのは自分だと主張するペンが、互いに軽口を叩き合う。ある夜、音楽会に感動して帰宅した詩人が、「人間は神という名人の奏でる楽器にすぎない」という思索を書き記すと、二者はその内容をめぐって相手を皮肉り合う。創作の源泉と表現の主体という観点から、芸術家の営みを象徴的なやり取りで描く作品。
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ある、詩人の部屋の中でのお話です。だれかが、詩人の机の上にあるインキつぼを見て、こう言いました。
「こんなインキつぼの中から、ありとあらゆるものが生れてくるんだから、まったくもってふしぎだなあ! 今度は、いったい、なにが出てくるんだろう? いや、ほんとにふしぎなもんさ」
「そうなのよ」と、インキつぼは言いました。「それが、あたしには、どうしてもわからないの。いつも言ってることなんですけどね」と、インキつぼは、鵞ペンだの、そのほか、机の上にのっている、耳の聞えるものたちにむかって、言いました。
「この、あたしの中から、どんなものでも、生れてくるのかと思うと、ほんとにふしぎな気がするわ。ちょっと、信じられないくらいよ。
人間があたしの中から、インキをくみ出そうとするとき、今度は、どんなものが出てくるのか、あたし自身にもわからないの。あたしの中から、たった一しずく、くみ出しさえすれば、それで、半ページは書けるのよ。おまけに、その紙の上には、どんなものだって、書きあらわされるのよ。ほんとに、ふしぎったらないわ!
あたしの中から、詩人のあらゆる作品が生れてくるのよ。読んでいる人が、どこかで見たと思うくらいに、いきいきとえがかれている人物も、しみじみとした感情も、それから、しゃれたユーモアも、美しい自然の描写もよ。といっても、ほんとは、あたし、自然て、なんだか知りませんけどね。だって、自然なんてものは、見たことがないんですもの。だけど、あたしの中にあることだけは、まちがいないわ。
あの、身のかるい、美しい娘たちのむれも、鼻からあわをふいている、荒ウマにまたがった、いさましい騎士たち、ペール・デヴァーや、キルスデン・キマーも、みんな、あたしの中から生れてきたんだし、これからも生れてくるのよ。もちろん、あたし自身が知ってるわけじゃないけど。だいいち、あたし、そんなこと考えてもみなかったわ」
「たしかに、あなたの言うとおりですよ」と、鵞ペンが言いました。