心づくし
本文約7,100字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
戦後間もないB劇団に所属する十九歳の春川千代子は、一座の仲間が恋に落ちる中、唯一の未経験者として過ごす。やがて新たに加入した山室弘と稽古で親密になり、千代子は彼に惹かれ始める。しかし山室には別の恋人がいることを知り、千代子は失恋の痛みを味わう。その後、別の男性から好意を寄せられるも距離を置き、編みかけのセーターを眺めては山室との日々を想う。やがて山室の復帰が決まると、千代子は彼を待ちわび、編み上げたセーターに二人の想いを込める。
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終戦後間もなく組織されたB劇団に、踊りもするし、歌もうたうし、芝居もするというような種類の女優が五、六人いた。
その中の二人は他の三、四人よりも年が上で、いずれも二十五、六。前々からきまった男を持っていた。一人は年も四十を越した一座の興行師の妾で、三ツになる子供がある。他の一人は銀座の或ダンスホールでクラリネットを吹いている音楽師を恋人にしていたが、あとの三、四人は年も二十になるかならず、手入らずの生娘だかどうだか、それは分らないが、兎に角B劇団開演の当初、二、三ヶ月ばかりの間は、楽屋の噂になるような事はしていなかった。
一座は浅草公園を打上げた後、近県の町々を一めぐり興行して東京にかえり新宿の或映画館で蓋を明けたが、その時には、早くも三人の中の一人は仲間の或男優と人目かまわず巫女戯るような仲になっていたし、また他の一人は次の興行の稽古中、一座の若い演出家先生と何やら背景のかげなどでひそひそはなしをはじめると云う有様。初に変らず娘のままで居残ったのは唯た一人になった。それは芸名を春川千代子といって年は十九。戦争中も幸に焼けなかった葛飾区高砂町の荒物屋の娘である。