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TORENDIA

勲章を貰う話

本文約13,500字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

欧州戦争の負傷により左腕を失った士官候補生イワノウィッチは、戦線に近い野戦病院で回復を待ち、戦場での功績を称えるサン・ジョルジェ十字勲章の授与を目前に控えていた。過去に恋や上官との関わりを経て戦場へ赴き、激戦の中で機関銃を操り負傷した彼は、今や死や悔恨を超越した晴れやかな心境にある。軍服に身を包み、受勲という名誉を噛み締めながら、病院の廊下を歩く姿を描く。

菊池寛

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一

春が来た。欧州戦争第二年目の春が来た。すべてのものを破壊し、多くの人類を殺傷している戦争も、春が蘇ってくるのだけは、どうすることもできなかった。

戦争の荒し壊す力よりも、もっと大きい力が、砲弾に砕かれた塹壕の、ベトンとベトンの割れ目から緑の芳草となって萌え始めた。砲弾に頂を削り去られた樺の木にも、下枝いっぱいに瑞々しい若芽が、芽ぐんできた。

冬の間、塹壕の戦士たちの退屈な心を腐らせた陰鬱な空の色が、日に日に快活な薄緑の色に変っていった。

戦線に近いプルコウにある野戦病院の患者たちも、銘々蘇ってきた春を、心のうちから貪り味わった。彼らが戦場における陰惨な苦しい過去を考えると、ガラス窓を通して、病室のうちに漂うている平和な春の光が、何物よりも貴く思われるのであった。

ワルシャワから、コヴノ要塞にかけての戦場で、有名を轟かした士官候補生イワノウィッチの負傷も、もうまったく癒えていた。

彼は、露暦三月十三日の朝、いつよりも早く目をさました。のどかな春の朝であった。病院の廊下に吊るされた籠の中の駒鳥は、朝早くから鳴きしきって、負傷兵たちの夢を破っていた。イワノウィッチは、寝台の上に起き直ると、両手を思い切り広げて大きい伸びをしようとした。が、右の手だけは彼の神経の命ずる通りに動いたが、左の方には、彼の神経中枢の命令を奉ずる何物も残っていなかった。彼は苦笑した。彼にはまだ、左の手が存在するような感覚だけが残っていた。そして、その感覚のために度々欺かれた。が、この朝だけは、自分が不具になったという悔恨は、少しも残っていなかった。

彼は二、三日前、総司令部からこの日ニコライ太公が、戦線からの帰途この病院を訪うて、サン・ジョルジェ十字勲章を彼に与えるという通知を受けていた。その勲章には三百ルーブルの年金が付いていた。彼はこの名誉と年金とをもって、元の大学生生活にかえろうと思っていた。そして静かな、煩わされない生活を楽しもうと思っていた。

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