あやかしの鼓
本文約38,200字 ・ 読了時間 約77分
あらすじ(AIが作成しました)
音丸久弥は、百年前の先祖が製作した「あやかしの鼓」を巡る呪いの連鎖と、自身が関与した変死事件の真相を遺書に綴る。綾模様の赤樫で造られたこの鼓は、音を聞いた者に不幸をもたらすと伝わり、久弥はかつて父が遺言した通り、鼓を打ち砕いて因縁を断ち切る決意をする。恩師の死や自身の犯人としての汚名に追い詰められながら、音丸家と鼓の血統をこの世から消し去るため、久弥は最期の時を迎えようとしている。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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私は嬉しい。「あやかしの鼓」の由来を書いていい時機が来たから……
「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や躑躅と異って「綾になった木目を持つ赤樫」で出来ているところからもじったものらしい。同時にこの名称は能楽でいう「妖怪」という意味にも通っている。
この鼓はまったく鼓の中の妖怪である。皮も胴もかなり新らしいもののように見えて実は百年ばかり前に出来たものらしいが、これをしかけて打ってみると、ほかの鼓の、あのポンポンという明るい音とはまるで違った、陰気な、余韻のない……ポ……ポ……ポ……という音を立てる。
この音は今日迄の間に私が知っているだけで六、七人の生命を呪った。しかもその中の四人は大正の時代にいた人間であった。皆この鼓の音を聞いたために死を早めたのである。
これは今の世の中では信ぜられぬことであろう。それ等の呪われた人々の中で、最近に問題になった三人の変死の模様を取り調べた人々が、その犯人を私――音丸久弥と認めたのは無理もないことである。私はその最後の一人として生き残っているのだから……。
私はお願いする。私が死んだ後にどなたでもよろしいからこの遺書を世間に発表していただきたい。当世の学問をした人は或は笑われるかも知れぬが、しかし……。
楽器というものの音が、どんなに深く人の心を捉えるものであるかということを、本当に理解しておられる人は私の言葉を信じて下さるであろう。
そう思うと私は胸が一パイになる。
今から百年ばかり前のこと京都に音丸久能という人がいた。
この人はもとさる尊とい身分の人の妾腹の子だという事であるが、生れ付き鼓をいじることが好きで若いうちから皮屋へ行っていろいろな皮をあつらえ、また材木屋から様々の木を漁って来て鼓を作るのを楽しみにしていた。そのために親からは疎んぜられ、世間からは蔑すまれたが、本人はすこしも意としなかった。その後さる町家から妻を迎えてからは、とうとうこれを本職のようにして上つ方に出入りをはじめ、自ら鼓の音に因んだ音丸という苗字を名宣るようになった。