右門捕物帖
本文約32,300字 ・ 読了時間 約65分
あらすじ(AIが作成しました)
八月初旬、下谷の三本榎の下で首に風穴をあけられ冷たくなった侍の遺体が発見される。不可解な死に疑問を抱く伝六の報告を受けた右門は、不穏な空気が漂う湯島坂下の三ツ又稲荷の境内へ向かう。そこではお家騒動に関わる一味が暗躍しており、右門は持ち前の鋭い眼光と洞察力を駆使して一連の事件の真相を解明していく。捕物名人として知られる右門が、夜の闇に紛れて悪人たちの企みを未然に防ぎ、江戸の町に静かな朝を迎えるまでの活躍を描く。
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――その第二十四番てがらです。
時は八月初旬。むろん旧暦ですから今の九月ですが、宵々ごとにそろそろと虫が鳴きだして、一年十二カ月を通じ、この月ぐらい人の世が心細く、天地蕭条として死にたくなる月というものはない。
だからというわけでもあるまいが、どうも少し伝六の様子がおかしいのです。朝といえばまずなにをおいても駆けつけて、名人の身のまわりの世話はいうまでもないこと、ふきそうじから食事万端、なにくれとなくやるのがしきたりであるのに、待てど暮らせどいっこうに姿を見せないので、いぶかりながらひとり住まいのそのお組小屋へいってみると、ぶらり――とくくっていたら大騒ぎですが、どう見てもそのかっこうは、これからくくろうとする人そっくりなのでした。それも、玄関前の軒下の梁のところへ、だらりと兵児帯をつりさげて、その下にぼんやりと腕組みしながら、しきりと首をひねっているのです。
「バカだな――」
「…………」
「なんて気のきかねえまねしてるんだ」
「…………」
「ね、おい大将。何しているんだよ」
だが、返事がない。振り向きもせずに、だらりとつりさがっている兵児帯を見てはひねり、ひねっては見ながめている様子が、さながら死のうか死ぬまいかと思案でもしているかっこうそっくりでしたので、名人も少しぎょッとなりながら呼びかけました。
「知らねえ人が見りゃびっくりするじゃねえか。死にたくなるがらでもあるめえに、寝ぼけているんだったら目をさましなよ――」
どんと背中をたたかれたのに、どうも様子が変なのです。のっそりとうしろを振り向きながら、上から下へ名人の姿をじろじろと見ながめていましたが、とつぜん、やぶからぼうに、ねっちりと妙なことをいいだしました。
「つかぬことをお尋ねするんだがね――」
「なんだよ。不意に改まって、何がどうしたんだ」
「いいえね、この梁からだらりとさがっている帯ですがね、だんなにはこれがなんと見えますかね」
「なんと見ようもねえじゃねえか。ただの帯だよ。二分も持っていきゃ十本も買える安物じゃねえか」