本文へ移動
TORENDIA

右門捕物帖

本文約23,200字 ・ 読了時間 約47分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸の町で若い女性の腰から帯を盗み取る事件が頻発する。八丁堀の同心・右門は、部下の伝六が記録する手口や被害の情報を手掛かりに下手人の正体を追う。春の賑わう街中で、お蘭という女性を狙い現れた黒岩清九郎らの一味に対し、右門は鮮やかな当て身で彼らを制圧する。事件の背景にあった脅迫の証拠を回収し、お蘭を救い出した右門は、何事もなかったかのように悠然と伝六と共にその場を立ち去る。

佐々木味津三

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 29

1

――その第二十八番てがらです。

「一ツ、三月十二日。チクショウメ、ふざけたまねをしやがる。女ノ女郎めが、不忍弁天サマ裏ニテ、お参リノ途中、腰ニ結ンデおったる、シゴキを盗み取られたとなり。くやしいが、ベッピンなり。昼間のことなれば、やいの、やいのと、呼ンダレド、呼ンダレド、だれも助けに来ねえとなり。いと怪し」

「一ツ、三月十三日。雨降ッテ、だんなのキゲンワロシ。

シゴキどろぼう、また出りゃがった。両国河岸にて、見せ物小屋の絵看板を、見とれておったれば、スルスルと腰から盗みとられたとなり。このほう、三割方、キリョウおちたるうえに、男が好きそうな下町っ子なり。雨なれば、呼ベド叫ベド人は来ズ、悲しやくせ者逃がしたり。と女の子が申し候」

「一ツ、三月十五日。だいぶ春めきて、四方の景色いとよろし。

だんなが、食いていとのことなれば木ノ芽田楽コセエタリ。だんなが十九本。おらが三本、あとにてないしょに十六本、それはさておき、またまたチクショウメ、シゴキ盗人出やがったり。番町、旗本、大沢八郎右衛門方、奥勤メ腰元、地蔵まゆにて目千両とのことなり。お使いにて出先よりけえりの途中、牛込ご門わき、濠ばたにてギュッとうしろよりくせ者だきしめ、腰のあたりをポテポテとなでたとみるまに、スルスルと、ハヤ盗まれたり、若き女の腰ばかりをねらうとは、憎さも憎し。くやしくて銭湯へ行くのも忘れたり」

「一ツ、三月十六日。

春が来て、ヒトリ寝ルノハイヤナレド、花が咲くゆえがまんできけり」

「おっといけねえ、いけねえ。うっかりと声も出して読めねえや。こりゃおらがゆうべないしょによんだ歌なんだからな。こんなものをだんなに聞かれたひにゃ、手もなく笑われらあ。――はてな。まだあったと思ったが、もうねえのかな」

「ウフフ……」

「え! 起きていたんですかい! しゃくにさわるね。寝てたと思っていたら目があいていたんですかい!」

声をたてて読んでいたのはもちろん伝六。しかも、読んでいたのは笑わせることに、『ふところ日記八丁堀伝六』と表紙にものものしい断わり書きの見えるとらの巻きなのですから、すさまじいのです。

「ウフフ。今のは歌かい」

佐々木味津三の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本