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TORENDIA

半七捕物帳

本文約26,000字 ・ 読了時間 約53分

あらすじ(AIが作成しました)

明治三十年の大火の後、半七老人はかつての吉原の放火犯・大阪屋花鳥の素行を語り始める。時は天保年間、手癖が悪く自棄になった花鳥は放火の罪で流罪となるが、島抜けし再び悪事に手を染める。一方、浅草観音の開帳に訪れた鉄物屋鍋久の母子は、巾着切りを注意した美しい娘と出会う。この娘と浪人者の父に関わる騒動は、やがて半七や配下の徳次による捜査へと発展し、過去の因縁が複雑に絡み合う事件の真相が次第に浮かび上がる。

岡本綺堂

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一

明治三十年三月十五日の暁方に、吉原仲の町の引手茶屋桐半の裏手から出火して、廓内百六十戸ほどを焼いたことがある。無論に引手茶屋ばかりでなく、貸座敷も大半は煙りとなって、吉原近来の大火と云われた。それから四、五日の後に半七老人を訪問すると、老人は火事の噂をはじめた。

「吉原がたいそう焼けたそうですね。あなたにお係り合いはありませんか」

「御冗談でしょう。しかし六、七年前に焼けて、今度また焼けて、吉原も気の毒ですね」と、わたしは云った。

「まったく気の毒です」と、老人は顔をしかめた。「どうも吉原の廓は昔から火に祟られるところで、江戸時代にもたびたび火事を出して、廓内全焼という記録がたくさん残っています。なにしろ狭い場所に大きい建物が続いている上に、こんにちと違って江戸時代の吉原は、どんなに立派な大店でも屋根だけは板葺にする事になっていたんですから、火事の場合なぞはたまりません。片っぱしから火の粉を浴びて、それからそれへと燃えてしまうんです。したがって、怪我人なぞも多ござんしたよ。大勢の客が入り込んで、ほとんど夜あかしの商売ですから、自然に火の用心もおろそかになって、火事を起し易いことにもなるんですが、時には放火もありました。娼妓のうちにも放火をする奴がある。大阪屋花鳥というのも其の一人ですが、こいつはひどい女でしたよ」

「大阪屋花鳥……。聞いたような名ですね。そう、そう、柳亭燕枝の話にありました」

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