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TORENDIA

鰊漁場

本文約24,300字 ・ 読了時間 約49分

あらすじ(AIが作成しました)

博奕で全財産を失った農夫の源吉は、家族の生活を支えるため、春の気配漂うT町の鰊漁場を目指す。雇傭契約の時期を過ぎていたものの、なんとか職を得ることに成功する。過酷な労働環境の中で、漁夫たちが抱える苦境を目の当たりにした源吉は、同僚の山本から教わる労働者としての権利や連帯の意識に目覚めていく。終漁を迎えた春、源吉は厳しい現実を胸に刻み、未知の可能性を秘めた帰路へとつく。

島木健作

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一

赤い脚絆がずり下り、右足の雪靴の紐が切れかかっているのをなおそうともしないで、源吉はのろのろとあるいて行った。やっと目的地についたという安心も手伝って、T町の入口にさしかかった頃には、飢えと疲れとで彼はそのままそこの雪の上にぶったおれそうだった。角の駄菓子屋で塩あんの大福を五銭だけ買い、それを食いながら、街路の上にようやく人通りの増して来た町のなかへ彼は這入って行った。

長い道のりのあいだ、行手にあたって絶えず見えかくれしていた積丹岳は、山裾までその姿をあらわしてすぐ目の前に突っ立っていた。三月に入ると急に気温が高まり、街路の雪が足に重たくべたつくような日がもう三四日つづいていた。見あげると積丹岳の上に重々しくかぶさっていた雪雲はいつか少しずつ割れて行き、その隙間からは晴々とした青い空がのぞかれるのであった。ときどき思い出したように雪がちぎれとんだ。空は晴れていながら、どうかして日の光がうっすらとかげると、どこからともなく雪がおちてくるのである。手にとってみるとしっとりとしたしめりを含んでい、掌の上ですぐにも溶けてしまうような淡雪だった。そこにも春の近さが感じられた。――街道を行きかう馬橇引や、買物に出て来たらしい百姓たちはいくどかまぶしそうに空を仰いだ。源吉はうなだれていた首をあげると、太い息を空に向って吐いた。

家並みがだんだんこみあって来た。長い間の冬眠から今さめようとしている町のけはいがその家並みのうしろにじいっとひそんでいた。町全体がかもし出す雑然としたものおとが、高くはないがどこか明るいひびきをもって、さかんな活動の一歩手前にある人間の動きを示していた。

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