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TORENDIA

三角形の恐怖

本文約11,900字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

大学生の「私」は、身近で単純な存在である三角形を対象に、他者を心理的に追い詰める実験を思いつく。標的として選ばれた無職の細田弓之助に対し、三角形の財布やマークを用いた執拗な嫌がらせを行う。後に細田から届いた手紙により、彼が「私」の亡き姉の恋人であったことや、自身の行為が思いがけず他者の運命を翻弄したことを知る。本作は、数学的思考と犯罪心理が交錯する中で展開される、因縁と恐怖の連鎖を描く物語である。

海野十三

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それじゃ今日は例の話をいよいよすることにしますかな。罪ほろぼしにもなりますからね。そうです。罪ほろぼしです。私の若い時のね。いや艶っぽいことなんか身に覚えはありませんから、アテられるなんて事はありませんよ。それは罪は罪だと思いますよ、今でもね。そうです、もう二十年も昔になりましょうか。先帝陛下が御崩御になって中野の先の浅川に御陵が出来た頃の話なんですよ。

その当時私はW大学へ通っていました。随分若こうござんしたよ。今見たいにこんなにデクデク肥っちゃいませんが、中肉中背という奴で頬っぺたも赤くて、桜の蕾かなんぞのように少しふくらんでいましたよ。亡くなった姉のお友達に電車の中なぞで行き合うと、

「宗夫さんはいつ見てもコドモさんですわねえ」

と懐しがられたものですよ。やあこんな風なことは言わない御約束でしたね。これは失敬。

其のころ私の家は東中野にありました。中野の辺を省線電車で通りますと、淀橋の瓦斯タンクより右の方へ三十度ばかり傾いたところにこんもりとした森が見えますが、あの森の直ぐ下でした。御承知の通り関東一帯に特有な大きい杉の森でして、近所では他のどこの場所よりも高い梢を持っていまして、遠方から見ると天狗の巣でもありやしないかと思われる位でした。私の家は、その塔の森と呼ばれる真暗な森と、玉川上水のあとである一筋の小川を距てて向い合っていました。どっちかと言うと一寸陰気な、そして何となく坊主頭に寒い風が当るともいったような感じのするところでした。

ですから学校に居る間は大学生の中にもこんなふざけ方をして喜んでいる無邪気な奴が居るかと思われるように陽気に振舞っていましたが学校がすんでから電車を東中野駅で捨てて、それから家まで五六丁ほどの道のりを歩いて行くうちにいつとはなく考え込んでしまうのです。帰って来て小川の縁に立ちかぶさるように拡った塔の森を仰ぐと今までの快活が砂地に潮がひくかのようにすっと消えてしまって、眼の下に急に黒い隈が出来たような気になるのでした。

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