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TORENDIA

とんびと油揚

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

とんびが高空から地上の死骸などを発見する仕組みについて、視覚のみに頼る従来の説の疑わしさを指摘し、嗅覚の役割を論じる。地上の物体から発散する臭気は、地面が熱せられることで生じる上昇気流の流線束に沿い、拡散を抑えられたまま高空へ達する。この上昇気流を利用して滑翔する鳥が、その流線束を追うことで臭気の発源地を特定できる可能性を提示し、鳥類の嗅覚の重要性や気流と感覚の関係性について再考を促す一編である。

寺田寅彦

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🎧 とんびと油揚 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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とんびに油揚をさらわれるということが実際にあるかどうか確証を知らないが、しかしこの鳥が高空から地上のねずみの死骸などを発見してまっしぐらに飛びおりるというのは事実らしい。

とんびの滑翔する高さは通例どのくらいであるか知らないが、目測した視角と、鳥のおおよその身長から判断して百メートル二百メートルの程度ではないかと思われる。そんな高さからでもこの鳥の目は地上のねずみをねずみとして判別するのだという在来の説はどうもはなはだ疑わしく思われる。かりにねずみの身長を十五センチメートルとし、それを百五十メートルの距離から見るとんびの目の焦点距離を、少し大きく見積もって五ミリメートルとすると、網膜に映じたねずみの映像の長さは五ミクロンとなる。それが死んだねずみであるか石塊であるかを弁別する事には少なくもその長さの十分一すなわち〇・五ミクロン程度の尺度で測られるような形態の異同を判断することが必要であると思われる。しかるに〇・五ミクロンはもはや黄色光波の波長と同程度で、網膜の細胞構造の微細度いかんを問わずともはなはだ困難であることが推定される。

視覚によらないとすると嗅覚が問題になるのであるが、従来の研究では鳥の嗅覚ははなはだ鈍いものとされている。

その一つの証拠としては普通ダーウィンの行なった次の実験があげられている。数羽の禿鷹コンドルを壁の根もとに一列につないでおいて、その前方三ヤードくらいの所を紙包みにした肉をさげて通ったが、鳥どもは知らん顔をしていた。そこで肉の包みを鳥から一ヤード以内の床上に置いてみたが、それでもまだ鳥は気がつかなかった。とうとうその包みを一羽の足もとまで押しやったら、始めて包み紙をつつきはじめ、紙が破れてからやっと包みの内容を認識したというのである。また他の学者はある種の鶚の前へカンバスで包んだ腐肉を置き、その包みの上に鮮肉の一片をのせた。鳥は鮮魚を食い尽くしたが布切れの下の腐肉には気づかなかったとある。

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