池
本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
大学構内にある池を題材に、そこを取り巻く自然環境の変容や、長年にわたり行われてきた学術的な観測・研究の記録を綴る。火事による周囲の景観変化を惜しみつつ、水中の生物の様子や氷に生じる紋様といった自然現象を回想する。また、過去に行われた水温の分布調査や沈没船捜索の実験など、研究資料の供給源として重要な役割を担ってきた池の歴史的・学術的な価値を考察し、今後の保存を強く訴える。
💰 この本を応援する(投げ銭)
大学の池のまわりも、去年の火事で、だいぶ様子が変わってしまった。建物などは、どうでもなるだろうが、あの古い樹木の復旧は急にはできそうもない。惜しいものである。それでも、あの大きな木が、全部は焼けなくてしあわせであった。たとえば池の北側に、大きなまっ黒く茂った枝を水面近くまでのばしている、あの木などもこの池の景色をスペシファイする一つのだいじな要素になっているのだが、あれなどの助かったのはしあわせである。毎年この木の下で、ディップサークルをすえては、観測の稽古のお相手をして来た私には、特にそんな気がする。
あの木の下の水面に睡蓮がある。これはもちろん火事にはなんともなかったに相違ない。ことしの夏、どこかの画学生が来てあれを写生していた。モネーの有名なシリーズがなかったら、ああいう構図は、洋画としてはオリジナルかもしれないが、今では別に珍しくはなさそうである。もっとも対象はいくら古くても、目と腕とが新しければ、いくらでも新しい「発見」はできるはずだろうが、私の見たできばえでは、そうでもなさそうであった。
あの睡蓮は近ごろのものである。もとは河骨のようなものと、もう一種の浮き草のようなものがあったのだと記憶している。ことしは睡蓮が著しく繁殖して来た。紅白二種のうちで、白いほうが繁殖力が大きいように思われる。実際そうであるか、どうか、専門家に聞いてみなければわからない。事実はどうだか知らないが、もしそうだとすると、これは一つのおもしろい問題になりそうである。それから、もし、睡蓮が他の水草を次第に圧迫して蔓延するか、しないか、これも問題である。物好きな人があったら、年々写真でもとっておいて、あとで研究したらおもしろそうである。