炭燒のむすめ
本文約8,000字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
清澄山の谷底にある炭焼き小屋で、長塚節は炭焼きに励む娘・お秋と出会う。過酷な環境で力仕事をこなす彼女の姿や、山林での静かな暮らしぶりを観察し、また時折交わす言葉や山仕事の様子を通じて交流を深める。山深い自然の中で繰り広げられる日常と、清澄山の風景を淡々と描写し、心を通わせながらも別れを惜しむ心情までを綴る。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
低い樅の木に藤の花が垂れてる所から小徑を降りる。炭燒小屋がすぐ眞下に見える。狹い谷底一杯になつて見える。あたりは朗かである。トーントーンといふ音が遙に谷から響き渡つて聞える。谷底へついて見ると紐のちぎれさうな脚袢を穿いた若者が炭竈の側で樫の大きな榾へ楔を打ち込んで割つて居るのであつた。お秋さんが背負子といふもので榾を背負つて涸れた谷の窪みを降りて來た。拇指を肋の所で背負帶に挾んで兩肘を張つてうつむきながらそろそろと歩く。榾は五尺程の長さである。横に背負つて居るのだから岩角へぶつつかりさうである。尻きりの紺の仕事着に脚袢をきりつと締めて居る。さうして白い顏へ白い手拭を冠つたのが際立つて目に立つ。積み重ねた榾の上へ仰向になつて復た起きたら背負子だけが仰向の儘榾の上に殘つた。お秋さんは荷をおろすと輕げに背負子を左の肩に引つかけて登る。こちらを一寸見てすぐ伏目になつた。矢つ張そろそろと歩いて行く。榾を運んで仕舞つたら楔で割つたのを二本三本づつ藤蔓の裂いたので括りはじめた。兩端を括つて立て掛ける。餘つ程重さうである。これが即ち炭木である。女の仕事には隨分思ひ切つたものだと思つた。
小屋へ腰を掛けて居ると鶺鴒が時々蟲を銜へて足もとまで來ては尾を搖しながらついと飛んで行く。脇へ出て見ると射干が一株ある。射干があつたとて不思議ではないが爺さんの説明が可笑しいのだ。山の中途でいかな時でも水が一杯に溜つて居るので一杯水といつてる所がある。そこに此草があるので、極暑の頃になると赤い花がさくのだと頗る自慢なのである。それで唯赤い花がさく草と思つて居るに過ぎない。可笑しいといつてもこれだけだ。