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TORENDIA

落第

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

東京の中学で英語の学習に苦しみ、漢籍に傾倒していた著者が、大学予備門への入学を目指して英語学習に励む過程を描く。予備門入学後、怠惰な日々を送っていた著者は、病気による追試不可を機に一念発起し、あえて留年することで学業への姿勢を改める。その後、実用と美術性を求めて選んだ建築科から、文学の道へと志を変えていくまでの自身の来歴を綴る。

夏目漱石

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🎧 落第 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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其頃東京には中学と云うものが一つしか無かった。学校の名もよくは覚えて居ないが、今の高等商業の横辺りに在って、僕の入ったのは十二三の頃か知ら。何でも今の中学生などよりは余程小さかった様な気がする。学校は正則と変則とに別れて居て、正則の方は一般の普通学をやり、変則の方では英語を重にやった。其頃変則の方には今度京都の文科大学の学長になった狩野だの、岡田良平なども居って、僕は正則の方に居たのだが、柳谷卯三郎、中川小十郎なども一緒だった。で大学予備門(今の高等学校)へ入るには変則の方だと英語を余計やって居たから容易に入れたけれど、正則の方では英語をやらなかったから卒業して後更に英語を勉強しなければ予備門へは入れなかったのである。面白くもないし、二三年で僕は此中学を止めて了って、三島中洲先生の二松学舎へ転じたのであるが、其時分此処に居て今知られて居る人は京都大学の田島錦治、井上密などで、この間の戦争に露西亜へ捕虜になって行った内務省の小城なども居ったと思う。学舎の如きは実に不完全なもので、講堂などの汚なさと来たら今の人には迚も想像出来ない程だった。真黒になった腸の出た畳が敷いてあって机などは更にない。其処へ順序もなく坐り込んで講義を聞くのであったが、輪講の時などは恰度カルタでも取る様な工合にしてやったものである。輪講の順番を定めるには、竹筒の中へ細長い札の入って居るのを振って、生徒は其中から一本宛抜いてそれに書いてある番号で定めたものであるが、其番号は単に一二三とは書いてなくて、一東、二冬、三江、四支、五微、六魚、七虞、八斉、九佳、十灰と云った様に何処迄も漢学的であった。中には、一、二、三の数字を抜いて唯東、冬、江と韻許り書いてあるのもあって、虞を取れば七番、微を取れば五番ということが直に分るのだから、それで定めるのもあった。講義は朝の六時か七時頃から始めるので、往昔の寺子屋を其儘、学校らしい処などはちっともなかったが、其頃は又寄宿料等も極めて廉く――僕は家から通って居たけれど――慥か一カ月二円位だったと覚えて居る。

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