小説の選を終えて
本文約1,500字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
十数篇の応募原稿の中から四篇を選出した選考の経緯と、各作品への講評を収める。特殊部落の闘争を描く「火葬場の下」、職場の日常を綴った「製本職工の創った小説」、北海道の過酷な開墾生活を追う「開墾仲間寅公」、職業紹介所での求職者の憤りを題材とした「市設紹介所」を俎上に載せる。執筆者の描写や構成の弱さを指摘しつつ、より現実を深く観察し、社会的な視点を持って立体的に描くよう改善の指針を論じる。
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私のところへ送付された十数篇の応募原稿の中から、左の四篇を予選にのこして回覧した。予選には洩れたが、何かの意味で書き直したら作者の勉強になるだろうと考えられた作品にはそれぞれ寸評を加えて原稿を送りかえした。
今回は、大体に云って特にずばぬけた作品がなかったのは残念である。この次には大いに期待している。
「火葬場の下」 榎南謙一
特殊部落に恐るべき悪臭をふきつける火葬場移転要求をして、二年も闘っているところへ指導に行った若い全会の闘士と、それを支持する少年等、やがてその村をおそった嵐について書かれ、実感のこもった、描写もある。しかし、この部落の闘争の背景をなす大きい運動が感じられるように書かれていず、又はじめにいきなり葬式行列と死骸のやかれるひどい有様からかき起したのは構成の上で失敗である。全体の結構から云ってあすこは必要ない。それから、作者は「であろう」という文句を何か適当しない場所につかっている。そのために、文章がよく考えてかかれたのでなくて、かき飛ばされているような印象を与える。
この作者の応募詩の或るものを一寸よむ機会を得たが、小説の中と詩の中と、同じ表現が幾度もつかわれていることに注意をひかれた。必しも咎めることは出来ないが、現実を周到に観察し、それぞれをなるたけ正確に、活々と表現しようと努力してゆけば、自然とそういう欠点はなおるであろうと思う。
終りの印象的にとらえられている場面は書きかたをもっと煩雑でなくするとズッと活きて来る。以上の点を考慮に入れ、予選作品の中では、まとまっている方であると思った。
「製本職工の創った小説」 谷英三