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TORENDIA

現代の主題

本文約11,900字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

民主日本の出発から一年を迎えた現状を綴る。戦時中の過酷な抑圧から解放された後、国民の精神は混乱と疑惑を抱え、社会の急激な変化に押し流されている。近代以降、自立的な知の基盤を築けなかった日本人が、封建的な支配体制下でどのような精神的傷を負い、民主主義の理念とどう向き合うべきかを論じる。社会の必然性を理解しつつも、歴史的自覚を持って一人前の人間として成長することの重要性を説く。

宮本百合子

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民主日本の出発ということがいわれてから一年が経過した。日本の旧い支配者たちがポツダム宣言を受諾しなければならなくなって、日本の民衆はこれまでの時々刻々、追い立てられていた不安な戦争の脅威から解放された。戦争が不条理に拡げられ、欺瞞がひどくなるにつれて、日本じゅうの理性を沈黙させ、それをないものにしていた治安維持法が撤廃された記念すべき日も、近くふたたびめぐり来ようとしている。

わたくしたちは、こうして営々と三百六十五日を生きとおして今日に至っているのだが、さて、平和・民主の一周年を迎えたという晴々とした歓喜の表情は、おたがいの眼の裡にきらめいているだろうか。旧軍事支配権力の無条件降伏は、考える葦、働く蟻であったわたしたち日本人民すべてに、人間らしい歩み出しの一歩を約束するものであったことを、確認して、この一年を生きてきたものの、明るいまなざしが街路にみちているだろうか。

率直にいって、日本の初々しい民主の精神は苦しんでいる。わたしたち一人一人のうちに、日本の全精神現象のうちに、民主の精神は、唐突なその目覚まされかたと同時に感じていた混乱、疑惑を、今日まだ十分に整理できずにいると思える。しかも、おくれた日本の覚醒をめぐる情勢の流れは迅くて、内部にちぐはぐなものを感じ、善意の焦点を見いだしかねているままに、現実は、むき出しな推移で私たちの日常をこづいて、ゆっくり考えてみるために止まる時間さえ与えない。体が、混んだプラットフォームに揉まれるばかりか、精神も押され押されて一つの扉口をいや応なく通過させられる状態にある。この場合、私たちの肉体が乱暴なつめこみにたいしてつねにいやさを感じるとおり、精神のラッシュにたいしてつよい不服を感じ抗議を抱いている。精神のラッシュにまぎれて、いかがわしい種々の操作が、今日では法律上の名目も失い、行政上の格式も失いながら、なお最下等動物のように執拗に、ぬけめない陋劣さで活躍していることも、人々が直感しているところである。

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