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TORENDIA

鴉と唱歌

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

帝劇で鑑賞したドイツ映画の中に、老人の歌に合わせて頸を動かす鴉の姿がある。この鴉の動作が歌のリズムや膝の微細な動き、あるいは視覚的な刺激に反応したものか、それとも鳥の音楽的な天性によるものかという疑問を提示する。著者は鴉が音の拍節を聴き分ける可能性について考察し、鳥類が持つ知能や音楽性という観点から、専門的な知見を持つ『野鳥』の読者へ向けてこの興味深い現象についての解明を求める随筆である。

寺田寅彦

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🎧 鴉と唱歌 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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帝劇でドイツ映画「ブロンドの夢」というのを見た。途中から見ただけではあるし、別に大して面白い映画とも思われなかったが、その中の一場面としてこの映画の主役となる老若男女四人が彼等の共同の住家として鉄道客車の古物をどこかから買って来るという事件がある。そうして、若い娘と若い男二人がその奇抜な新宅の設備にかかっている間に、年老った方の男一人は客車の屋根の片端に坐り込んで手風琴を鳴らしながら呑気そうな歌を唄う。ところがその男のよく飼い馴らしたと見える鴉が一羽この男の右の片膝に乗って大人しくすまし込んでいる。そうして時々仔細らしく頭を動かしてあちらを向いたりこちらを向いたり、仰向いたり俯向いたりするのが実に可愛い見物である。しかるに、不思議なことには、これが老人の歌の拍子にうまく合うように律動的に頭を動かしているように見えるのであった。もしや錯覚かと思って注意してはみたが、どうも老人の唄の小節の最初の強いアクセントと同時に頸を曲げる場合が著しく多い事だけは確かであるように思われた。してみると、この歌のリズムがなんらかの関係で、直接か間接か鴉の運動神経に作用しているらしく思われた。

しかし、これだけでは鴉が音の拍節を聴き分けるという証拠には勿論ならない。第一、この映画を撮影している人々が画面の此方に大勢いるはずである。その人々の中であるいは指揮棒でも振って老人の歌の拍子をとっているコンダクターがいるかもしれないとすると、鴉はその視覚に感ずるある運動する光像のリズムに反応しているのかもしれない。あるいはまた、誰かわざわざ鴉にそうした芸当をさせるために骨を折って何かしら鴉の注意に働きかけているのかもしれないのである。それよりも、もっと直接に、唄っている老人の膝自身が歌の拍子に従って動くために鳥の神経にそれだけの刺戟を与えているのかもしれない。尤も映画で見られるほどの運動は老人の膝に認められないが、微細な波動がないとは云われないのである。

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