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TORENDIA

生と死との記録

本文約18,800字 ・ 読了時間 約38分

あらすじ(AIが作成しました)

十月十八日、帰宅した私は、病気で療養中だった息子の堯が以前より悪化していることに気づく。医師の診察を受けるが、その後も症状は好転せず、衰弱していく堯の看病に追われる日々が続く。長引く腸の病気との闘い、そして妊娠中の妻・芳子と共に抱く不安や恐怖を背景に、家族が向き合う生と死の過酷な現実をありのままに綴る記録である。

豊島与志雄

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十月十八日、空が晴れて日の光りが麗しかった。十二時少し過ぎ、私はHの停留場で電車を下りて家へ歩いて行った。賑かなM町通りを通っていると、ふと私は堯に玩具を買って行ってやろうかと思った。玩具屋の店先には種々なものがごたごた並べてあった。私はその方にちらりと目をやって頭を振った。そんな考えが私に起ったのは、非常に珍らしかったのである。そして何だか変だった。空を仰ぐと、青く澄み切った大空が円く悠久な形を取って私自身を淋しくなした。

私は何時ものように性急に歩きながら、寺の間の静かな通りを自分の家に帰って行った。

玄関にはいると、常が一人私を出迎えた。私は一種の物足りなさを感じた。私が勤めから帰って来ると、いつも芳子かS子さんかまたは常かが、堯を後から抱えるようにして歩かして出迎えるのが普通だった。堯は笑い乍ら飛びはねるようにして出て来るのであった。

私は黙って靴を脱いで茶の間に通り、それから座敷の方を覗いた。いつもの蒲団を敷いて堯は寝ていた。芳子が側に坐っていた。

「どうかしたの。」と私は云った。

「ええ。」と芳子は不安らしい眼を挙げた。そしてこんなことを話した。――十時頃堯はいつものように昼寝をした。十二時に眼を覚した。がっかりしているようで元気が無かった。額が熱かった。熱をはかると九度八分に上っていた。驚いてまた寝かすと、そのまま眠ってしまった。

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