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TORENDIA

守宮

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

書斎の硝子戸に夜な夜な現れる大きな守宮と、夜の街で見かけた窓辺で不可解な動作を繰り返す男を軸に、自己の映像に対する心理的葛藤を綴る。硝子戸に映る自分の影を呼び出し幻影と対峙する著者に対し、食欲のままに生きる守宮の姿を対比させる。独自の観察を通じ、生への執着や精神のあり方を考察する本作は、硝子戸越しに見つめる二つの存在への親しみと、そこに流れる静かな思索の時間を描いている。

豊島与志雄

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🎧 守宮 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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私の二階の書斎は、二方硝子戸になっているが、その硝子戸の或る場所に、夜になると、一匹の守宮が出て来る。それが丁度、私の真正面に当る。硝子戸から二尺ばかり距てて机が据えてあり、机の上に電気スタンドが置かれているので、夜の光をしたしんで飛んでくる虫は、大抵、真正面の硝子戸に集り、その虫を捕獲に来る守宮も、随って、真正面のところに姿を現わすことになる。

十センチほどの、年経た大きな守宮である。硝子戸の向側にとまっているので、私はその腹部から眺めるわけである。背中は褐色斑紋のある暗灰色の筈だが、腹部なので灰白色であり、既に多くの虫を呑んだと見えて、でっぷり脹らんで、時々大きく息をしている。四本の短い小さい足の五本の指を拡げて、指先の円い扁平なところで、ぴたりと硝子にくっついている。

紙切ナイフの先で、硝子のこちら側を、軽く撫でたり叩いたりしたくらいでは、彼はびくともしない。呑気なのか、大胆なのか、恐らく鈍感なのであろう。然し、少し大きめの蛾か昆虫かが来れば、それにじっと狙いをつけて、ぱっと飛びつき、口に銜えて、頭を振りながら激しく硝子にたたきつけ、相手が弱ってくるのを待って、徐ろに呑みこむのである。食物が豊富なせいか、小さな虫には見向きもしない。時には、大きい虫が来ても、捕えようともせず、数時間じっとしている。

彼は日によって、現われたり現われなかったりするが、その彼のために私は、寝る時も、そこだけ雨戸を閉め残し、二燭光の電灯をつけ放しにしておく。豊富な猟場を、夜通し彼に残しておいてやりたいのである。

私は彼を愛し初めているのであった。――電気スタンドの位置が時々変るので、その光のかげんで、私自身の姿が硝子戸に映って見え、その姿に彼の姿が重なり合うことがある。その彼に、私は親しみを覚え初めているのであった。

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