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TORENDIA

勇士ウ※[#小書き片仮名ヲ]ルター(実話)

本文約14,600字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

イギリスのシェフィールドで泥棒未遂として捕まったウォルター・グリーンウェイは、屋根裏部屋に登ることを何よりも好む特殊な男だった。改心し船員として働くも消息を絶つが、数年後の世界大戦下、アラビアへ渡りイギリスのために奔走していたことが明らかになる。様々な仮装と潜入を駆使して祖国に尽くした彼の行動を、かつて彼を導いたホームス牧師が、その驚くべき事蹟として振り返る。

鈴木三重吉

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一

これは、こしらへた冒険談ではなく、全くほんたうの事実話ですから、そのつもりでお聞き下さい。

今からちやうど二十年まへのことでした。或ときイギリスのシェフィールドといふ町の警察へ、一人の泥棒未遂の犯人があげられました。年のころ三十がッかうの、黒い大きな眼をした、背のごく低い男で、夜中に、或家の屋根裏の部屋へはいりこんだところをつかまつたのですが、唖を装つてゐるのか、ほんとに唖なのか、どんなに、おどかしても、だましても、てんで口をきゝません。現場をつかまへた刑事のいふところでは、この犯人は猫のやうに、すら/\と屋根裏までかけ上り、にげるのにも、大屋根の真上を、平地のやうに、かけとぶといふ、したゝかもので、この手ぎはでは、むろん前科もあるにちがひないのですが、何しろ耳も聞えず、口もきかないのですから、署でも手こずりました。

で、ためしに、ほんたうの唖をつれて来て、手真似で対話をさせて見ましたが、犯人には、その手真似も一さい通じません。かゝり官はとう/\、その警察署附きのロバート・ホームスといふ牧師をよんで、やさしく、さとして見てもらふことにしました。

犯人はたゞの人のやうに、きちんとした身なりをしてをり、相当に物わかりもよささうな顔つきをしてゐるのですが、ホームスさんが来て、いろ/\おだやかに話したり、さとしたりしても、やはり、何にも聞えないふりをして取合ひません。

署では困りはてゝ、ともかく、そのまゝ留置場の一室へおしこんでおきました。

ところが、看守人たちは、この唖に午飯をはこんでやるのをわすれてしまひました。それから、念入りに午後のお茶も夕飯までも、すつかりわすれてあてがひませんでした。

すると、夜になつて唖は部屋の中で、ドタン、バタンとさわぎ出しました。その物音で看守人たちはそこに唖の泥棒がおしこめられてゐたことに、はじめて気がつきでもしたやうに、あわてゝバケツへ少しばかりの飲水を入れ、錫の水飲みをそへて持つていきました。

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