デイモンとピシアス
本文約4,600字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
古代希臘のシラキュースで権力を握る暴君ディオニシアスは、他者を疑い続けた孤独な支配者である。ある時、彼の反抗者として捕らえられたピサゴラスの学徒ピシアスは、私用で一時帰郷する間、友人デイモンを身代わりとして牢に残す。二人の深い信頼関係と信実は、猜疑心に満ちた暴君の心を動かし、やがて彼は二人の友愛に触れ、仲間入りを願うようになる。本作は、極限状態における友情の尊さと、人間性を奪う権力の虚しさを描く。
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一
これは、二千年も、もっとまえに、希臘が地中海ですっかり幅を利かせていた時代のお話です。
そのころ、希臘人は、今のイタリヤのシシリイ島へ入り込んで、その東の海岸にシラキュースという町をつくっていました。そこでも市民たちは、やはりみんなの間からいくたりかの議政官というものを選んで、その人たちにすべての支配を任せていました。或とき、その議政官の一人にディオニシアスという大層な腕ききがいました。
ディオニシアスは、もとはずっと下級の役に使われていた人ですが、その持前の才能一つで、とうとう議政官の位地まで上ったのでした。この人のおかげでシラキュースは急にどんどんお金持になり、島中のほかの殖民地に比べて、一ばん勢力のある町になりました。
それらの殖民地の中には、アフリカのカーセイジ人が建てた町もいくつかありました。シラキュースはそのカーセイジ人たちと、いつもひどい仲たがいをしていました。ディオニシアスは遂にシラキュース人を率いて、それらのアフリカ人と大戦をしました。そして手ひどく打ち負してしまいました。
そんなわけで、ディオニシアスはシラキュース中で第一ばんの幅利きになりました。それでだんだんにほかの議政官たちを押しのけて、町中のことは自分一人で勝手に切り廻すようになりました。
ディオニシアスはずいぶんわがままな惨酷な男でした。市民たちは彼のいろいろな乱暴から、ディオニシアスを蛇のように憎み出しました。しかし、市民もほかの議政官も、彼の暴威に怖れて、だれ一人面と向って反抗することが出来ませんでした。
ディオニシアスには、市民たちが、すべて自分に対してどんな考えを持っているかということが十分分っていました。ですから、しじゅう、ちょっとも油断をしませんでした。いつだれが、どんな手だてをめぐらして、自分を殺すかも分らないのです。ディオニシアスはそのために、最後にはもうどんな人をでも疑わないではおかないようになりました。